第21章 壱組の人達
「む、ムキになってなんかないです…!」
「まあそんなに怒らないでよ、面白いから。」
「なぁ…っ!」
勝ち目のないであろう言い合いを終わらせたのは黙ったままだった與儀さんだった。
「まあまあ2人共落ち着いて?」
「…すいません。」
「僕はずっと落ち着いてるけどね。」
大人な対応をした與儀さんは、私から手を離した代わりに一歩前に出た。
それと同時に喰さんが掴んでいた手も離れた。
「…そんなことより喰くん、今日はキイチは一緒じゃないの?」
何気なく、話題を変えるために聞いたことなんだろうけど、今の言葉に少し傷ついた。
(…そんなこと、なんだ…。)
確かにからかわれてるだけだったけど、私にとっては凄く大事なことで。
(與儀さんには興味ない話だったのかな…。
…キイチさんって、誰だろう…?)
顔は見えないので、ただ背中を見ていた。
「キイッちゃん?そうだ與儀くん…早く帰った方がいいと思うよ。」
「え?どうして?」
「そりゃ君が…あ、噂をすればだ。
ほら、早く行った行った!」
「わぁっ…!」
奥から聞こえてきた声に気付くと、喰さんは與儀さんを無理矢理押して急かした。
(きゃ…っ、あ…)
ぶつかりそうになったのを、與儀さんは庇うようにしてくれて、そのまま手をとられた。
「走らないとキイッちゃん来ちゃうよ!」
「…??」
訳が解ってない與儀さんに引かれて私も走りだした。
「また後でね~。」
途中そんな声が聞こえて振り返ったら、喰さんは笑顔で手を振ってた。
会ったばかりだけど、1番愉しそうな笑顔で。
「あー面白い。」
「ちょっと喰くん?何してるんですかぁ?」
喰が声の聞こえた方を見ると、小さな少女が腕を組んでいた。
「あ、キイッちゃん。もういいの?」
「こんなのどうってことないですぅ。
…ところで、貮組のマヌケがいたように見えたんですが。」
「まあね。」
肯定すると、キイチの顔に苛立ちが表れた。
「どうして逃がしたんですかぁ、喰くん。」
「だってさぁ、楽しみは後に取っておいた方がいいでしょ?それに、ツクモちゃんにも会えるチャンスだし。」
「…悪趣味の変態。」
キイチの声は無視して、喰は2人が去った後を眺めていた。