第4章 物語の始まりへ
それからしばらく経ったある日のこと。
私は米花駅である人物と待ち合わせをしていた。
「お待たせしました瀬里奈さん」
来たのは色黒の青年──安室透もとい、降谷零さんだ。
「いえ、私も今来たところなので……。それで、お話って何ですか?」
私がそう言うと、安室さんはニッコリ笑った。
「あまり人に聞かれたくない話なので……半個室の居酒屋を見つけましたので、そこでお話ししましょう」
半個室と聞いて少し身じろいだが、安室さんの頼みを承認したのは私である。多少は仕方ないか、と思い素直に安室について行く。
「ここですよ。予約してあるので、少し待ってて下さい」
そう言って安室さんは店の奥にある店員を呼び、席に案内してもらう。
席に着き、まず飲み物だけ頼む。
「僕は車なのでソフトドリンクで。瀬里奈さんはどうします?」
「私もソフトドリンクでお願いします」
注文した飲み物が来ると、さっそく安室さんが切り出した。
「さて、3年前あなたが僕に訴えていた『母親のこと』なんですが──」
「私は今でも公安もFBIもCIAも嫌いですよ。あの時助けてくれなかったんだから」
「まぁ最後まで聞いて下さいよ、僕なりにそのことを調べさせてもらいました」
ああだから連絡を取って来たのか。私は今さら納得した。
「あなたのお母さんが亡くなったのは10年前、その頃僕は19で組織にはおろか公安にも所属していませんでした。その件については僕を恨むのはお門違いですよ」
安室さんのその言葉に私はすかさず反論した。
「私はあなた自身が嫌いなんじゃないんです。組織にいた公安なりFBIなりCIAなり、潜入してる人がなぜ助けてくれなかったんだって、そう思うだけです」
「そうですね、でもあなたの母親は組織の人間だった。一般人ならいざ知らず、組織の人間を積極的に助けようと思う潜入捜査官はいませんよ」
その言葉にカッとして思わず手が出た。パチンッと乾いた音がする、気づいた時には安室さんの頬に私の平手が炸裂していた。
「あ……」
なんで受け切ったの。女の平手なんて公安のあなたなら止められるはずなのに。