第11章 揺れる警視庁1200万人の人質
「なるほどね……」
私は資料を見ながら、ぐーっと背伸びをした。傍らに置いてあった紅茶を一口飲む。
「事故死した爆弾犯の住所は突き止めたんだ……でも分かったのは誰かと2人で住んでいたということのみ、ね……」
もし、私が爆弾犯だとしたら……こう思うだろう。
『警察が嘘の情報をTVで流し、仲間を罠にかけて殺した』んじゃないか、と。
「……まぁ、まるっきり逆恨みよね」
そうひとりごちてから思う。
……私もか。
『公安が助けてくれてたら』『FBIが助けてくれてたら』なんて思うばかりで、自分は動かなかった。
『まだ子供だから』という殻を盾に取って。
「あー……最低だね」
私は苦笑して紅茶を一口すすった。最低な気持ちとは裏腹に、紅茶はひどく甘く感じた。
「今頃、新一達は躍起になって捜査してるんだろうな……。無理にでも行けばよかったかも」
明日の爆発予定時刻は、ちょうどバイトの真っ最中。どうなるかは気になるが……。
「休めないしなぁ……」
私は『事件を間近で見たい』という好奇心と、『バイトにしっかり行かなくてはならない』という義務感の狭間で揺れ動いた。
「……ラジオで聞くしかないか。……みんなも心配だけど、私は……」
佐藤刑事が一番心配である。
もし犯人が捕まったとなれば、佐藤刑事は松田刑事の件もあるため、冷静に犯人に接することは出来ないだろう。万が一殺したりなんかしてしまえば──
「……ダメダメ、怖い想像やめよ」
頭をぶんぶん振り、一瞬浮かんだ恐ろしい妄想を振り切る。
だが、その後に思い出したのは──
『いいか瀬里奈。これはお前が生きるための“踏み絵”だ。お前が生きるために、こいつを殺すんだ』
『桂羅兄……私、私……』
『オレは……お前ら家族を許さない!!!』
『止めて───!!!』
『……ごめんな、瀬里奈──』
「……っ!」
ハァ、ハァと激しく呼吸を繰り返す。なかなか酸素が肺に回らない。
また……思い出した。あの時の……“踏み絵”を。
組織に入る時、誰でも“踏み絵”を課せられる。組織への忠誠を絶対的な物にするため、そしてその者の覚悟をはかるためだ。
だが私はその“踏み絵”を課せられなかった。理由は簡単。
──幼い頃に、その“踏み絵”を課せられているから。