第11章 揺れる警視庁1200万人の人質
佐藤刑事と高木刑事、コナン君が慌てて車に駆け寄った。遅れてその場にいた少年探偵団や博士、私もそちらへ走る。
佐藤刑事が慌てて運転席を覗くが、誰もいない。そこへ、弱々しい声がかかった。
「き、危険です……。は、早くその車から……は、離れて……」
「し、白鳥君!?」
白鳥警部の体には運転席のドアが乗っていた。私がそっとドアを体から避けさせると、高木刑事が白鳥警部に訊いた。
「だ、大丈夫ですか?」
「あ、ああ……。き、君のようにうまく逃げられなかったようだがね……」
そう言う彼の右の頭部からは血が出ている。辛うじて喋れるという所か。
「でも、喋れるんなら大丈夫そうね……」
佐藤刑事が安心したように言うが、そばにいたコナン君が否定した。
「いや……。右側頭部から出血し、左の手足が麻痺している……これは多分……」
「急性硬膜下血腫……」
哀ちゃんが言った。
「早く病院に連れて行かないと……ヤバイわよ……」
佐藤刑事と歩美ちゃんがその言葉に呆然とする。私はそんな2人に言った。
「ガソリンに引火したら2次爆発が起きかねません!救急車が来るまで、白鳥警部を車から離しましょう!」
博士と高木刑事で白鳥警部を車から離してもらう。
「ありがとうございます2人共……」
「いえ、白鳥さんのためですから」
そう言って笑う高木に、私もふわり、と笑った。だがそのすぐ後に真顔に戻る。
恐らく犯人は、『店の中に爆弾を仕掛けた』というガセネタで警察をおびき出し、刑事達が調べている間に本物を車の中に仕掛けたのだろう。店の外に避難させられた大勢の客に紛れて……。
「ねぇ、新一……気づいた?」
私は周りに聞こえない程度に耳打ちした。コナン君もこくりと頷く。
「ああ……。さっき見た感じだと起爆装置は多分、車のドアを開けると安全ピンが外れ、もう一度開けて外に出ようとすると着火する仕掛け……。問題は、白鳥警部がどうしてすぐに外に出ようとしたかだけど……」
ちらりとコナン君は白鳥警部の方を見る。白鳥警部は佐藤刑事に何やら紙を渡していた。
「そ、それを……その紙を……すぐにあなたに見せたくて……。あ、あなたを悩ませている消せない記憶……それを吹っ切るチャンスですから……」
その紙を見た佐藤刑事の表情は一変した。
「『俺は剛球豪打のメジャーリーガー
さあ延長戦の始まりだ』」
