第11章 揺れる警視庁1200万人の人質
子供達は無邪気に高木刑事に話しかける。何も知らない彼は由美さんや白鳥警部にも感想を求めた。2人は動揺を押し殺して返事を返すが、佐藤刑事だけは──
パンッ。
平手打ちの乾いた音が聞こえた。
殴ったのは佐藤刑事、殴られたのは高木刑事だった。
「あ、あの……佐藤さん?」
「目暮警部から指令を受けているはずよ……あなたは変装する必要はないって……」
佐藤刑事は俯きながら言った。
「あ、はい……でも一応……」
「だったらどーしてそんな格好するのよ!?」
佐藤刑事は感情を振り切ったように叫んだ。高木刑事は呆然としながら「す、すみません……」と謝る。佐藤刑事は最後まで高木刑事の目を見なかった。
「分かったら変装を解いて、すぐに持ち場につきなさい!いいわね!」
「は、はい……」
私はそんな佐藤刑事をじっと見つめる。──彼女の心に深い傷を残し、今もなお忘れられない……“彼”。
「……私、そろそろ本当に行きますね。これ以上ここにいたら何だかバタバタしちゃいそうだし……」
私は周りに気兼ねしつつそう言った。
「あ、高木刑事」
「ん?何ですか瀬里奈さん」
私の名前を覚えていたのか、と感心しつつも要件をきっちり伝える。
「くれぐれも爆弾で死なないように。殉職なんてしたら──佐藤刑事、今度こそ壊れちゃう」
「は、はぁ……?」
意味がよく分かっていない高木刑事に、私はニッコリ笑ってそう言った。
「じゃ、私はまだ用事があるからこれで。またねみんな」
私は子供達に手を振り、その場を後にした。
──その裏で、3年前の“彼”にリンクする事件が起きているとは露ほどにも思わずに──