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ぼくは、きみと。

第1章 #01


「お兄さん」

無事黒猫さんと合流して、近くの駅まで向かっている時、少女はふと呟く。一瞬反応が遅れたけど、僕は返事を返した。

「ん?」

「お兄さんはなぜ一人で動物園にいたのです?」

「あ〜…」

その質問にどう返そうか。そもそも小学生に付き合うという概念があるのか?少し考えてから、僕はできるだけ簡単な言葉を選んだ。

「恋人とね、別れちゃったから」

「あら。言い難いことを聞いてしまいました。すみません」

立ち止まってぺこりと頭を下げる少女に、僕は「いやいや」と頭を上げるよう言った。少女の動きに合わせて黒猫さんまで頭を下げている。

「いつまでもズルズル引きずってるのも良くないから、動物園に来て癒されようと思ってね」

そう言えば少女はとても小さく笑った。そして「癒されましたか?」と問いかける。

「そうだね。トラもさることながら黒猫さんの毛並みの良さに癒されたかな」

「あら、ですって。良かったわね」

少女に言われ、黒猫さんは嬉しそうに鳴く。そのうちに僕たちは動物園に近い駅に辿り着いた。少し広い駅の前には明治時代の街頭のような時計塔が設置されていて、そこがよく待ち合わせ場所として使われている。
僕らはその時計塔の前まで行き、向かい合う。

「じゃあ、僕はここで。今日は楽しかったよ」

「それは良かったわ。お兄さんにも良い事があるといいわね」

「あ、うん。君も元気でね」

「ええ」

僕を見上げ、少女は曇りない笑顔で笑うと黒猫さんを連れて僕に背を向けた。僕はそんな少女をしばらくの間眺めてから、踵を返した。
僕の心では、先日別れた彼女は小さくなっていてその代わりにあの少女が黒猫さんを抱いていた。
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