第1章 #01
「……お嬢ちゃん、もしかして迷子?」
しゃがむ事で少女と視線を合わせ問いかけると、少女はぶぅ。と頬を膨らまし腕を組んだ。
「私が迷子に見えますか?」
「……見えるから聞いてるんだけどな。とりあえず、先生探す?あ、もしかして家族で来てる?それならインフォメーションセンターに……」
そこまで言ったところで、僕の膝を叩く者に気付いた。少女よりも更に視線を下げると、そこにいたのは真っ黒のコートを着た可愛らしい子だった。彼女(彼?)は「ニャー」と彼女ら特有の鳴き声を発しながら僕の膝に擦り寄る。
すると、そんな彼女に気付き、彼女を持ち上げると、少女はまるで子供をなだめるように言った。
「駄目でしょう、黒猫。お兄さんにあなたのコートの毛が着いてしまうわ」
「黒猫……?」
少女の言葉に違和感を覚えた。少女の真っ黒な瞳が彼女から僕の方へと移動し、その細い首が上下に揺れる。
「ええ、そうよ。黒猫。彼女の名前」
「黒猫って……」
少女のネームセンスを疑う。これじゃあまるで人間に日本人って名付けるようなものじゃないか。僕は、そっと黒猫さんを地面へ下ろす少女へ苦笑を浮かべた。
だが、次の言葉で僕は少女の賢さに感嘆することになる。
「しょうがないじゃない。知らない人に名前は教えちゃ駄目だって、学校で教わったんだもの。だから、お兄さんには私の名前も、彼女の名前も教えてあげないわ」
「ああ、なるほど」
単純に少女が賢いと思った。僕の子供の頃とは大違いだ。その時僕は思い出す。何故今僕は少女と話している?その経緯を辿り、僕は思い出し問いかけた。
「……話を戻すけど、それで、君は迷子ではないのかい?」
「ええ違うわ。私、一人で動物園に来たのよ」