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ぼくは、きみと。

第1章 #01


僕、笹崎拓海は絶賛傷心中である。何故か。それは、約一週間前、高校時代から付き合い、丁度今年二年目に突入して、本気で結婚まで考えていた彼女に振られてしまったからだ。
ああ、本当にツイてない。
トラの檻の前、の更に前。奥には子供が不用意に近づかないように、溝が作ってある。その少し手前にある手すりに手どころか肘ごと預け僕は深くため息を吐いた。
これでは檻の中のトラの方が余っ程幸せなのでは?そんな考えが頭を巡る。自由さえ奪われど、ある程度の広い部屋に繁殖を望む人間達から番まで用意される。

『用意された幸せは幸せだと気づけない事が既に不幸だ』

ふと、頭の中に浮かぶ言葉。同じような言葉が同じような人たちに何万回と言われ続けて来たことだろう。僕はそんな戒めのような言葉に、心の中で反論する。

ーー幸せなやつにはわかるかよ。

ギギっと手すりが変な音を立てた。その音にハッと我に返り、深い溜息を吐くと共に頭を抱える。
もしかしたら、僕はこの時既に何かに期待していたのかもしれない。今の僕を変えてくれる様な、『何か』に。そして、その時は唐突に訪れた。

「ごきげんよう、お兄さん」

突如耳に鮮明に残る声が聞こえた。まるで漫画のように顔を上げ左少し斜め下を見ると、そこには可愛らしいワンピースに小さいリュックを背負った少女が、僕を見上げ笑っていた。
そんな少女と目が合ってから、僕は周囲を見渡す。しかし、僕の隣にいるのはお兄さんと呼ぶには些か若すぎる中学生の男子が(修学旅行だろうか)トラを見て各々興奮した瞳で語り合っているだけだった。
他には誰もおらず、僕は再び少女に視線を戻すと、少女は更に目を細め嬉しそうに頷いた。
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