第19章 とある街のbarで
ぼろぼろと涙を流した後、少し後悔した。
「とりあえず、落ち着け。」
その声に、不思議と心が落ち着くのがわかった。
少しヒステリックだっただろうか、そう考えると、今度は恥ずかしさがじわじわと襲ってきた。
「………ごめ、ん…なさい…」
「いや…。俺が言えた事じゃねぇが、ソイツのした事は、正直、うちのお頭でも怒るだろうな」
素直に謝ったのが意外だったのか、一瞬だけポーカーフェイスを崩した姿に見とれた。
…そういえば、出会ってからずっとポーカーフェイスで、鋭い印象の瞳が、今は優しげに見えるのは、思い込みだろうか。
何が、と言われても解らないけれど、ズルい、なんて思ってしまう。
どうせ、色んな島に寄る度に、その逞しい腕や胸板で女を抱きしめて、沢山の女を虜にしてきたに違いない…
そんな考えがよぎるのは、私がすでにこの男に惹かれている証拠か…
「名前を聞いてもいいか」
「やだ、ナンパ?」
ベン・ベックマン相手に、こんな冗談を言ってしまうなんて、まだ酔いが残ってるみたいだ
「名前を教えれば、何処かへ行ってくれるなら…」
「言いたくないならいいが…。俺は海賊だからな。その時は、欲しい物を手に入れて行く」
「…茉都莉よ。ほら、早くお宝を手に入れてこの島から出てって」
きつい言い方だとは自覚している。
「俺は…」
「名前くらい知ってるわ」
「そうか、ベンと読んでくれ」
…だけど、彼は怒ってこなかった。
「さて、欲しいモノを手に入れて行くとするか」
ニヤリと笑ったかと思うと、見とれていた私を立ち上がって抱えた。
「ひゃっ!?」
「…というわけだ、大人しくしててくれよ」
「ちょっと!?何で私!?え、このまま赤髪の船に行くの!?」
頭の中がちょっとしたパニックになりかけている。
抱えられたまま、店を出て、街の海へと続く道を歩いていると、ベンはこんな事を聞いてきた。
「今なら、まだ何とかなるかもしれないが?」
街の人からとても注目されているのを感じ、恥ずかしさで顔が赤くなっていく。
お酒のせいであまり体に力が入らず、抵抗が出来ないのも理由だけれど…