第1章 出会い
翼が欲しかった。
翼さえあれば、きっと何処までも行ける。
子供じみた憧れだと、心の中で嘲笑する自分がいる。
それでも、大空を舞う鳥の羽ばたきを見上げるたび、夢見ずにはいられなかった。
翼が欲しい。
この身を解き放つ“翼”が……。
* * *
ここまで来れば、とりあえず安心だろう。
ようやく一息つきながら、俺は鬱蒼とした森に身を潜めた。
脇腹の傷が痛んでも、そんなことに構う余裕もないまま、やっとの思いでここまで来た。
陽が高い内は人目につきやすい。動くのは、夜になってからの方が良さそうだ。
それまでは、しばらく身体を休ませておこう。
昼でも暗い森の中、俺は剣を握ったまま樹の幹に身体を預けた。
それから、どれくらい経った頃だろうか。
何だ?
目を閉じて、幾らも経たない内に、俺は妙な気配を感じて身構えた。
無意識に剣の柄に手を伸ばす。幼い頃から嫌になるほど叩き込まれた、それは己を守る習慣の一つだった。
何だろう? 追手か?
俺はひたすら神経を集中させて、その気配を追った。
すると、気配は徐々にこちらに近付き、やがて、ガサガサと草を掻き分ける音を上げて、人影を映し出した。
どうやら追手ではないらしい。
ホッ、と息をつく間もなく、更に複数の気配が近付いてくる。
やはり追手ではなさそうだが、人前に出るのは控えた方が良さそうだ。
俺が咄嗟に身を隠すのと、甲高い声が上がったのは、ほとんど同時だった。
「来ないで!」
そっと盗み見ると、旅の途中らしい一人の少女が、いかにも胡散くさそうな男達に囲まれている。
こんな人通りの少ない山道だ。山賊の一人や二人、居ない方がおかしいだろう。
薄暗い森、人気のない場所……。そんな場所ではよく起こる、ありふれた出来事だ。
だが、その後の展開が、いつもとは違っていた。いつもなら、目の前で何が起こっていようと関知しなかった。
そんな気にもならなかったからだ。なのに……。
なのに、気づいた時、俺は少女を助けていた。