第1章 1
昼食の休憩を挟み、仕事場である執務室に戻ってきたものの、なかなか休憩から仕事に頭が切り替わらず、身が入らずにいた。さきほど想像した亜麻色の髪を持つ執務室の持ち主は不在。それゆえに
ボヤっとした私をと噛める者もいない。不在の彼がきっと今の私を見たら嫌味の一つや二つ繰り出してくるだろう。
そんな姿を想像しつつ仕事を進めるがやっぱり身が入らない。それどころか私の頭の中には亜麻色の長い髪の乙女の歌が抜けず、鼻歌を口ずさむ。今日はいないからいいのだ。
仮眠室が私室とかし、カレンダー1ページに家に帰る回数なんて片手で収まるであろう働き者の上司は今日は珍しく有給を使用し、休むと聞いた。理由なんて聞いてはいなかったが上司の親友のお喋りな偉い人に聞いたらお見合いらしい。軍の名家であるが三十路を過ぎ結婚しない彼に見合いの話しは耐えなかった。
容姿端麗眉目秀麗、言葉にすれば綺麗な四字熟語が並ぶスペックの上司、しかし結婚できない。しないのか。
問題はたぶん性格。腹黒、鬼畜、ドS、天邪鬼...褒められたことは私の口から言えない
「陰険ロン毛眼鏡。」この前の御落胤騒動の際、偉い親友が上司に言っていたこの言葉に間違いは無く、私は思わず吹き出してしまい酷い目にあったな。そんな事を考えながら、いつもに比べいくらかゆっくりなペースで仕事進めて行く。お昼食べすぎたかな。何故か今日は仕事に身が入らない。何故だろうか
「なんて言うんでしょうか」
アホズラ、でしたっけ?ふわりと落ちてきた声に思わず顔を上げる。そこには長い髪をまとめ肩から流した、 普段の軍服ではない、正装した上司がいた。咄嗟のことに驚きの声を噛み砕き、気を取り直し顔に出さないように、失礼ですね、と返す、いつも通りだと思う。
「それは失礼。」
ボヤっとしてないで仕事してください。と有給を得たはずの上司が机に向かう。