第5章 近づく心
「リ、リヴァイさん? 胸、痛いんですか?」
考え事をしながら、天井をぼうっと見つめていたリヴァイは戻ってきたアイリーンに気づかず、服を握りしめたままの格好だった。
その格好を見て、小さな箱を手に持って戻ってきたアイリーンは近くの机に箱を置くと、小走りでリヴァイに駆け寄る。
その顔は心配そうに眉間に皺が寄っている。
「いや、なんでもな」
「そんなことないです! こんなに眉間に皺が寄ってるじゃないですか!」
リヴァイの手を両手で掴んで、アイリーン自身も眉間に皺を寄せている。
床に両の膝をついてリヴァイを見つめるその瞳は、嘘をついてはいけません。と強く訴えている。
「……お前も皺、寄ってる。」
トン。と空いている手で、リヴァイはアイリーンの眉間を人差し指で叩く。
その瞬間、アイリーンの瞳が大きく見開かれ、叩かれた箇所を片手で防いだ。
「す、すいません……。人の事言えませんでした。」
恥ずかしそうに笑いながら、アイリーンは自分の眉間を擦る。
その顔に、またリヴァイは胸をチクリと刺された気持ちになる。
「……俺は大丈夫だから、少し離れろ。」
「え? ……あ」
ぱちっと大きな双眼を瞬きさせて、リヴァイと自分の距離を確認。
瞬間、みるみるうちに顔が赤く染まっていくアイリーン。
その態度を見て、少しだけ意地悪したくなったリヴァイは、口許に緩く笑みを湛える。
「それとも、この距離はわざとか? 俺を試しているのか……?」
「め、滅相もございやせん!」
ぐっと距離を縮めてアイリーンの耳元で囁くと、予想通りアイリーンはリヴァイと距離を離そうと動く。
だが、リヴァイは握られている手に力を込めて、アイリーンを逃がさない。
その行動にアイリーンは繰り返し、滅相もございやせん!と間違った言葉を繰り返す。
本当に面白い奴だ。
リヴァイは、自分はこんなにも嫌な奴だったか。と心で苦笑いを溢した。