第10章 アリスの覚醒
「私達も行きましょう」
「おー。アリスの為だもんな」
王の歌声が聞こえる。
その声に二人も勇気づけられていた。
タイミングを見計らい、いくつものダーツの矢を手に駆け出す水色。それを追いかける黒色は手に持つ厚みのある本を開き、術を唱える。
水色が放つダーツの矢が敵を捉える。…が、その矢は致命傷を負わせることなく、するりと身体に取り込まれて動きを止めていく。その直後に黒色が唱えた術により、眠りにつく。
彼らもまた、殺す事などしなかった。
「みんな…」
王は虹の軍全員を想い、歌い続けた。
時に不安で赤色を揺らすも、近くにいるオレンジと黄色の声に後押しされ、前を見据える。
死人など出さない。みんな無事でいて。
彼の優しさを歌に乗せる。
そしてその声はマイクを通し、みんなを勇気づける。
自分で戦う事が出来ない王の、彼なりの戦いだった。
歌う事で増幅する仲間の力。
その為に、彼は歌い続ける。
その歌声は、緑色にもしっかりと届いていた。
「お兄さんも頑張りますか…」
尻尾に付いたピアスを手に取ると、瞬時に銃へと姿を変えた。
ヤマトの銃は殺傷能力の幅が広い武器。魔法で作られた弾丸だと動けなくなったり眠りに付くものなど、相手を殺さないものもある。だが今回はそんな優しいものではなく、打ち所を間違えれば即死に至る…そんな弾丸を装備していた。
「場合によっては…な」
眼鏡の奥で目を光らせ、息を殺す様に潜む。
もうすぐで開かずの間。
ヤマトが勝手に開かずの間と呼んでいるだけなのだが、アリスがここにいることは確実だった。
少し前に今まで踏み入ったことのないこの部屋からテンがアリスを呼ぶ声がしたから。
だが、黒の兵士達が慌ただしく通るせいでなかなか踏み入れられなかった。
「面倒だな…」
舌打ちをしつつも、タイミングを見計らう。
王の歌声に力を貰いつつ。