第9章 危機、そして影の真実
「…テン、もう少し大人しくしてほしいな」
アリスを呼び暴れ続けていると、流石に気に触ったらしいクジョウが、テンに向かって杖を振る。
その杖の先から青白い光が飛び出したかと思えば、一直線にテンの身体に向かって行く。
「ぐっ…!」
「いい子にしていて」
「な、なぜ…っ」
苦しみに悶えながらも、テンは必死にクジョウを睨みつける。
「なぜって…彼女の力を知らないのかい?」
彼女、アリスの力。
言い伝えは有名な話となっているが、詳しい話は誰も知らない。ただ、その時になれば力が解放され…覚醒する、という事だけ。
それを探ろうとした時、テンはクジョウに見つかったのだ。
「駄目だね…彼女の事を知らずに任務をこなしていたなんて」
「言い伝えだけは…」
「アリスは、誰も持っていない武器を持っているんだ」
武器?
テンはなんの事か全くわからなかった。
「黒と虹…二つの国が争う時、彼女は力を発揮する」
それは何となく分かっているつもりだ。
言い伝えから考察している説だったから。
「力を発揮すると、全ての者は武器を手放す…彼女は人々を支配する絶対君主になるのだよ」
「絶対、君主…」
「どういう原理なのかは解明されていない。だが…彼女が覚醒する事で人々は争いの意思を剥奪される。そして両国を収める女王となり、自らの命と引き換えに平和を掲げて呪いをかける」
テンは混乱していた。
争いの意思の剥奪。両国を収める女王。命と引き換えに呪う。…脳が上手く働かない。
「恐ろしい呪いだよ。人々の心に豊かな感情を生み出すのだからね…」
それが、彼女…アリスの力なのか。
ようやく理解したその時。テンはある一つの答えに辿り着く。
まさか、まさか彼は。
「その力を…取り込むのだよ」
クジョウは目を細め、アリスを見つめる。
その頃。
「虹の軍、攻撃開始!」
黒の城の周りでは、争いが起きていた。
赤い髪を靡かせた声の主は、願いを込めて歌う。
「俺達も行くぞ!」
「yes.モチロンです!」
王の前に躍り出ると、二人は向かってくる敵に立ち向かう。
マジックの様に帽子からトランプを飛ばして敵を切り裂いていく黄色。そしてそれを援護する様に、大きなハンマーで敵をなぎ倒すオレンジ。
それでも、大きな怪我を負わせる程度で死に至る様な傷は付けなかった。
誰一人、殺さない。