第9章 危機、そして影の真実
「え…」
黒の国へと突撃をしたその時。目の前の惨状に、イオリは思わず目を疑った。
「なんだこれ…」
合流して一緒に黒の国へとやって来たタマキも、イオリと同じく、目を疑った。
フェンスが出来る前、仲が良かった頃の景色は何一つ残されていなかった。
茂っていたはずの緑は枯れ、そのせいで露になっている賑わっていたはずの街は閑散としていて…遠くからでも眺めることが出来たはずの城の周りには、高い壁が出来上がっていた。まるで、住民との間に距離を置く様に。
「暗くなってんな…」
「そう、ですね…」
あまりにも静かで、人の気配が感じられない程だった。気味の悪い程に、生が、感じられない。
「駄目です、私達はアリスを救い出すんです。こんな所で怖じ気付いていては…」
「イオリン…」
「っ…行きましょう」
イオリとタマキが驚いていた頃、ヤマトは既に黒の城へと足を進めていた。
「ったく…今日は一段と生気が無いな…」
思わず身震いをする。
前から何度もこっそりと足を運んでいたから、この暗くなった国の現状は知っていた。それでも、ここまで人の気配が感じられないのは初めてだった。
「うわ、やっぱりか」
城に近付くにつれて、人の気配が増えたかと思えば軍人だった。そしてその多くがそれぞれ武器を手に、反撃の準備に勤しんでいた。
真っ昼間からお忙しいこって…。まぁそれは俺達もそうだ。
そんな事を思いつつ、いつもの侵入経路へと足を早める。
「…なんだよ、これ」
「そんな…」
「oh…酷いデスね…」
後から黒の国へと足を踏み入れた三人も、驚きを隠せなかった。
他の人と同様に、以前の街を知っているから。
「テン兄…」
リクの呟きは二人の耳にだけ届いた。
その声にミツキとナギはそっと、リクの肩に触れる。
「…ありがとう、大丈夫」
二人の優しさに、リクは笑顔を見せて前を向き直す。
「うわ…マジかよ」
思わず呟いたのはヤマトだった。
いつも城に侵入している時に使っていた穴場にはアリスが履いていた白い靴が落ちていた。
ここに落ちているという事はここからアリスを連れて入った人がいる…つまりこの出入口を使う人物がいる。
今まで普通に入ってたのが奇跡だった。
そう思いつつも、アリスがここにいるということが分かり、一安心する。
「さて…」
行きますか。