第8章 眠り姫と黒の影
「じゃ、行こ」
タマキが短く執事に告げ、その場を去る。
「それではソウゴさんと私は先に黒の国へと向かいましょう。ナギさんと兄さんはタマキさんが戻り次第、黒の国へと向かってください」
「イオリ、俺も行くよ!」
「駄目です、リクさんがそんな危ない状況の中に…」
「イオリ、俺達が援護する」
ミツキがリクの肩をポン、と叩きながら告げる。
その眼差しにイオリも納得したのか、仕方ない、といった様子でリクと向き合う。
「絶対に一人で行動するのは辞めてください」
その言葉にリクはパァっと表情を明るくするが、一瞬で凛々しい顔つきに変える。
「分かった!」
「それから…ヤマトさんに会った場合、攻撃態勢に入る事を伝えてください」
一通り説明したイオリはリクに目配せをする。
それに気付いたリクは、白いキングの駒を取り出すと眩しい程の光を放った。
次の瞬間にはマイク付きのスタンドになっていた。
そして、そのマイクを通して虹の城の隅々まで声を響かせた。
「城内各役員に告げます。特攻隊は攻撃準備、その他の隊は守備態勢を強化せよ!」
その頃、テンは焦りを感じていた。
アリスをあの方の部屋へ連れて行った後何故か意識を失ってしまい、気が付いたら後ろ手に手枷を付けられていた。
この暗い部屋…あの方の部屋だ。
そう気付いた時、部屋の主は姿を現した。
「起きたかい?テン」
「何をするおつもりですか、クジョウ様…」
「これ以上手出しをされると困るからね。君はしばらく見ているだけでいいんだ」
「だから何を…っ!」
部屋の主、クジョウと呼ばれた男の後ろにはアリスの姿があった。
それも、先程まで着ていた純白のドレスではなく…闇に包まれたかのような黒いドレスに身を包まれ、何かの台の様な場所に寝かされている姿。
「アリス…っ」
「慌てなくてもいい。直ぐに終わるからね」
そう言うとアリスに近づいて何かを手にするクジョウ。
何をしている?
テンは目を凝らした。
「さぁ、アリス…お前の力を寄越すんだ…!」
手にしていた物は、先が鋭く尖った短剣だった。
クジョウはそれを振り翳すと青白く気味の悪い光を放つ。
ーーー危ない。
「くそっ…」
いくらもがいても、暴れても手枷は外れない。
せめて駒が取れれば。
そう思って身体を動かすも、駒は出てこない。
アリス…っ!