第6章 混乱と異変
一方、黒の国にて淡い桃色の髪を靡かせる影が一つ。
「…様、僕です」
凛とした声の青年は静かに呼びかけた。そして、重たい扉をノックをする。ギィ、と音を立てて開いた扉の先には暗い闇。思わず部屋の主が不在なのかと思った時、遠くに青白く光る炎を見つけた。
「おや、テンじゃないか。…アリスは連れてこれなかったみたいだね」
黒いローブを纏った影が1歩ずつ少年に詰め寄る。その部屋の主はテンと呼ばれた青年の目の前で歩みを止める。
「すみません、虹のエースがアリスを連れていた様で…」
「言い訳は聞いていないよ?テン」
「っ…すみません」
冷たく突き放すその声に、空気までもが冷たくなる。長い時間も居たくない。誰もが感じるであろうその緊張感にテンも思わず逃げたくなる程で。…だが、そうはいかない。
「やはりお前は物分りがいい…君のことだ、次の策はあるんだろう?」
目を細める部屋の主。
「もちろんです」
「流石だね。やはり私の息子だ」
「…あの。そろそろアリスを捕らえる理由を…」
今日こそは。そう思っていたテンだが、その期待は直ぐに切り捨てられる。
「テン」
まるで、蛇だ。…そう思わせる程に冷たく細められた目。ゾクリと背筋に悪寒が走る。これ以上追求してはいけないと察し、口を閉ざす。
「そうだ、君に渡すものがある」
いつもの微笑みに表情をもどした部屋の主は、そう告げると青白く光る炎の元へと去っていった。…よくもまぁ、こんな暗闇を歩けるものだ。自分はやっと目が慣れて辺りを見渡せるのがやっとなのに。
「これを持っていきなさい」
ハッと我に返ると部屋の主はすぐ側までやって来ていた。また目の前で足を止め、手に持っていた小さな瓶をテンに差し出した。
「…これは?」
「アリスに飲ませなさい」
目を凝らすと装飾の凝ったガラスの小瓶に何か着色された液体が入っているのが分かる。
「死に至る様な薬ではない。ただアリスに飲ませればいい…さぁ、行きなさい。テン」
「…はい」
青年は小瓶を受け取り部屋を後にした。その部屋の主の企みに気付かずに…。
「さぁ、私の可愛いテン…」
テン…私の可愛い青い鳥…
私に幸せを…アリスを運んでおいで…
アリスの力を…私に…