Wonderful Life〜素晴らしき日常〜【気象系BL】
第10章 俺達のスペアキー
コーヒーを入れたカップを手に、潤が俺の隣に腰を下ろし、俺の髪をクシャッと掻き混ぜる。
「パパさん覚えてたんだな、和が一番好きなケーキ」
「うん…」
「丁度コーヒーも入ったことだし、朝飯代わりに食う?」
「そうだね。でもちょっとだけ待って?」
俺は大急ぎで寝室に戻ると、充電器に繋がれたままだったスマホを手に取った。
そしてカメラアプリを立ち上げてから、スマホを潤に差し出した。
「ねぇ、撮って?」
ケーキを軽く持ち上げ、作り笑いを浮かべる俺…
こうしてパパの手作りケーキと写真を撮るのは、最早恒例行事のようなもの。
カシャとシャッター音が響いて、潤がテーブルの上に俺のスマホを置いた。
「なあ、その写真、パパさんにも送るつもり?」
「そのつもりだけど? だめなの?」
「いや、そういう訳じゃないけどさ…」
潤の歯切れの悪い物言いに、若干の不信感を抱きながらも、俺は撮ったばかりの写真をパパのLINEに送った。
「さ、食うか」
「うん、俺もうお腹ペコペコ」
お皿なんて必要ない、潤が用意してくれたフォークでケーキを一口掬って口に運ぶ。
「あんま〜い…!」
途端に口いっぱいに広がるバナナの甘さと、仄かなチョコの風味…
子供の頃なら丁度良かった筈の甘さは、大人になった今は少しだけ甘過ぎて…
でも続けて口に含んだブラックのコーヒーとの相性は、絶妙で抜群のバランスだった。