第1章 転がり落ちた先の、春。
「あのねぇ……」
季節が冬から春へと変わろうとしている今、の頭の中だけ常夏の様に熱くなっている。
この状況をどう打破したらいいかそればかり考え過ぎてショートしそうだ。
「別に、なんとかなんだろ」
「なりません、絶対なりません」
3年生への進級を掛けたこの期末テスト。
自分がどれだけ崖っぷちにいるのかこの男は全然わかってないのだ。
「青峰くん!ここ、乗り切らないと春は来ないのよ!」
「うっせーなぁ…俺の進級なんだからお前にカンケーねーだろ」
「………あります」
「あ?………げっ…」
このテストにパスしなければ青峰は留年。
留年した生徒には部活動は一切禁止されている。
つまり、
「高校最後の年に、青峰くん皆とバスケ出来ないんだよ…?私、そんなのヤダよ…」
涙を目に溜めて、は青峰にそう告げた。
来年こそ、日本一になろうって約束したのに。
マネージャーとしてそれを見届けたいのに。
そこに、青峰がいないなんて。
「わ、わかった…!わかったから泣くな!」
どうも自分はコイツの涙に弱い。
惚れている弱味と言えばそれまでなのだが、何も反論出来なくなってしまうほどだった。
ポンとの頭に手を置いて宥める。
自分の部屋に、好きな女と二人きり。
そんな状況で勉強なんて頭に入るはずないって彼女はわかっているのだろうか。
(コイツわかってねぇだろうな…まぁ、そりゃそうか)
気持ちを伝えていない上に、ドのつくほどは鈍い。
マネージャーとして選手の変化には敏感なのに自分の事になると気付かない。
わざわざ一緒に勉強していた桜井と桃井を飲み物の買い出しに行かせたんだから、ここで畳み掛けるしかない。
青峰の頭はそれでいっぱいだ。
「青峰くん、一緒に進級しようね」
無邪気に笑うに青峰の胸の奥の火種がチリチリと音をたて始めた。