第3章 A DEER
青峰がを布団の中に匿うと部屋のドアは開いた。
間一髪だ。
「青峰、もう1人はどこだ」
「トイレでクソしてるよ」
「…2人で仲良くトランプか?」
「んな訳ねぇだろ。さっきまでサッカー部の奴らが来てたぜ」
テーブルの上に散らばったカードを見つけた先生の足音が、青峰との方に近付いてきた。
ドアの方に背を向け小さなを抱きしめていた青峰の腕に、さらに力が込められる。
の頬は、青峰のはだけた浴衣から覗いた厚い胸板に押し付けられていた。
そこから聞こえる心臓のリズムは早くて、緊張している。
は青峰の浴衣の襟を力を込めてぎゅっと握る。
トイレの流水音がした。
布団の中のにとってその音は曇ったように遠くに聞こえた。
先生の注意が向こうに移れと、神様に必死で祈った。
先生は部屋に現れたサッカー部の彼といくつか言葉を交わした後、早く寝ろよと睨みつけて部屋を出て行ったようだ。
扉が閉まる音がする。
バレなかった。セーフだ。
彼はユニットバスの奥に隠れていた彼女の元に慌てて飛んでいった。
「びっくりしたー」
肩の力が抜けほっと一息ついたは、目の前の温もりにしがみつく。
ほんの数秒の出来事だったはずなのに、もう随分と時が流れている気がした。
直に、冷静さは舞い降りる。
「ご、ご、ごめん!」
そうだ。
今私を包んでいるのは、今日初めて存在を認識した同級生だ。