第2章 SUMMER RAIN
大学4年生のはゼミが終わり帰宅するところだった。
キャンパスを出るとき、たまたま見上げた空に浮かんだ大きな雲に嫌な予感がして、安いビニール傘を買って正解だった。
「うち近いから、来て。それじゃ風邪ひいちゃう」
が差し出す傘を青峰は否応なく受け取らされる。
「一緒に入ろ。大ちゃんの方が背が高いでしょ?持って」
青峰は遠慮し傘を返そうとするが、いいからと強引に寄り添うの肌が触れる。
深い意味なんてない。
恐らく男だとか女だとか、彼女はそんなことを考えてはいない。
いつのまにか背の高さを追い越して、今ではバスケも負けることはないだろうに、未だに出会ったときのまま、の中で青峰は子どもなのだ。
「嘘、もう冷えてるじゃん」
青峰の腕を摩るの体温が、暖かい。
「やめろ、平気だって」
このとき青峰の頭からは買ったばかりの写真集のことなんてすっかり抜け落ちて、左肩にかけた鞄はずぶ濡れになっていく。
右側にいる彼女が雨に濡れぬようにと、守ることに必死だった。
耳元で傘を叩きつける雨音が、脈打つ心臓の音を掻き消していく。
は青峰を家に招いた。
こちらに向けられたその笑顔は昔と変わらず綺麗で、青峰は吸い寄せられるように彼女の自宅に足を踏み入れる。
「取り敢えず、脱いで待ってて!」
玄関で立ち尽くす青峰は、頭から爪先まで身体中から水が滴っていた。
濡れて重くなったネクタイを解き、肌に纏わり付いたシャツ、インナーを脱ぐ。
玄関の戸を開け外に向かいそれらを捻ると大量の雨が絞り出された。
「これ…」
風呂場からタオルを持ってきたが、体を固め頬を染めている。
しなやかに、でも力強く鍛え上げられた腕や胸の筋肉、見事に割れた腹筋。
『大ちゃん』は、3年も会わぬ内にこんなにも成長したのか。
「早く貸せよ」
青峰はが慌てて投げたタオルを受け取ると、体と髪の水分を軽快に拭き取っていく。
…今なら少しは、男として見てくれんのか?