第68章 【番外編】二つの憂鬱
そんな日のことなど忘れていた数日後、陛下の護衛でしばらくグランコクマを離れることになった。
ルルさんを連れて行く予定だったが、戦場を横切る可能性もあった為、今回は断念した。
「しかし変ですね、会議なら宮殿でやってもよろしかったのでは?」
「内密の話ってことらしいからな。
最初は俺もそう言ってたんだが、向こうも引かなくて…」
違和感をどこかに感じながらも、今はそれを受け止めるしかなす術がなかった。
町外れの小さな貴族邸で話し合いは決まった。
少し面倒な案件があったのだが、それはなんとかなるだろう。
陛下の横で静かにそれを聞いていた。
「最後に………ピオニー陛下に一つお話が……」
「…そっちが本題か。
早く言えば良いもんを…」
変に感じた陛下が悪態をつき、ため息をおまけにつけた。
「そろそろご結婚を考えてはいかがかと…」
「毎回言っているが俺は……」
「政略結婚の話はもう良いと思っております。
時代は変わりました。
例えば、城内の娘で気になる方とか……」
「はぁ?」
「例えば……出所不明な幼い少女……」
「ばっ!!」
陛下の口が先か、私の手が先か。
机が大きな音を立ててひび割れる。
「陛下はもっとグラマラスな女性がお好きですよ。
無駄な話はやめていただけませんか?」
「貴様…ご、護衛のくせに何を…!?」
「いえいえ、ただ、私の握っているこちらの写真。
お話をおやめ頂かないと明日の新聞にでもと思いまして」
「!!!?」
「心当たり、おありですよねぇ?
下世話な方には下世話な仕返しが一番かと、思いまして」
どろっと固まった血液が熱く流れていく。
それを誤魔化すかのように、冷ややかな笑顔を浮かべ、手駒をちらつかせた。
逃げるように帰っていく先方を眺めてから、漸く複雑な心境をもやもやと巡らせていく。
「やられましたねぇ」
「あんなに動揺するお前が見られて、俺は得したけどな」
「悪趣味……」
「死んでも生まれ変わっても、お前には言われたくない」