第68章 【番外編】二つの憂鬱
「お帰りなさいませ!」
愛しの少女が笑顔で出迎えてくれた。
もやもやとした数日を過ごし、やっと心が晴れたかのようだ。
「はい、ただいま」
今すぐにでも交わりたいという衝動をおさえ、口づけを交わすと、諦めて私は執務室で雑務を片付けることにした。
何回しても聞こえてくる彼女の心音は、甘く私の心に響く。
書類を片付け、陛下に引き継ぐものを一通りまとめて向かう。
「ジェイドお前正気か!!?」
「…?」
「俺とルルの結婚式するのを承諾したって、ここに…」
王室宛の手紙に何故かその文面。
そしてそれを作成したのが、私の親族になっている。
「…はめられましたね、これは…。
私達がグランコクマを離れている間に全て仕組まれてしまったようです…」
「おい…来賓にもう手紙送ったとか書いてあるぞ…」
「取り止めてしまったら信用が下がってしまいますね…。
情勢は安定していると言えども、反乱軍がこれを期に動き出してしまうかもしれません」
幼馴染はむっとして私の顔を覗きこむ。
「お前の問題なんだぞ、なんでそんな冷静なんだよ!」
「焦っては逆効果ですから、なんとか切り抜ける方法を考えます。
式まであと5日、会見はその前日、パーティーは会見のその後という日程ですね」
手紙に書かれたスケジュールを脳内に叩き込む。
その他の取り決めをざっくりと読み、全てを上手く壊し、何事もなかったようにする作戦を練り上げた。
「頼むからあっちにも話が行かないように……」
「わかっています」
陛下のため息が、天井にこだましていく。
私も何かに当て付けないとどうしようもない感情を持ちながら、そっと部屋を後にした。