第3章 お好み焼き
何故か髪を褒められ、顔が熱くなる。
赤いのが鉄板の前だからだと思われていますように。
「バド部は引退っていつ?」
「勝ち続けてる限りは。大会終わるまでずっと部活」
答えると千石くんがキョトンとする。
あれ?何か変なこと言った?
「あははっ良いなぁ、それ、南にも言ってやろ」
「え?」
「ほら、普通、負けるまでは、とか言わない?ちゃんってポジティブなんだねぇ」
「あ、そうか、そうかも」
負けるまで、か。よく考えたらそうだよね。
「そういうの、すごく良いね」
「そう?なんか今日は褒められすぎて困っちゃうよ」
「そう?ただの事実だから大丈夫だって」
つられて笑う。
「テニス部も、同じような感じ?」
「うーん、俺の代って、なんか強敵揃いなんだよ〜亜久津もめちゃくちゃ上手いしね」
「亜久津くんって、意外と真面目だよね」
「あはは、その評価を女の子から聞くと思わなかったけど、そうなんだよねぇ。喧嘩っ早いのは困るけど、授業も案外サボらないし」
「タバコもやめたら良いのにね」
「え、ちゃん気付いてたの?」
「亜久津くんも家近いじゃない?朝走ったりしてると見かけるもん」
「亜久津って早起きなのか…」
早起きについては知らなかったらしい千石くんが神妙な顔をする。
「千石くんも早起きでしょ」
「どうかなぁ?」
「朝走ったりしてると、見かけるよ」
「あー、ははは」
何故かバツが悪そうにする千石くん。
「それよりさ、スポーツ大会、ダブルス組むんだから練習しようよ」
「良いんだけど、私あんまりダブルス得意じゃないよ?」
「まぁ良いじゃん、それでも勝てる気がするし」
いたずらっ子な目で千石くんは笑う。
「千石くんが良いなら、良いよ」
もう今年1年分の運勢、使い果たした気分。
明日先生に言って、ダブルスの申請しよう。
片想いのまま終わってしまったとしても、良い友達になれたら嬉しいな。
こうして人に心を開ける一歩になったら良いな。