第1章 たすけてクー・フーリン
「あ……?!よりによってアイツかよ?!」
キャスターのクー・フーリンが素っ頓狂な声を上げる。彼が落としてしまった羊皮紙の束を拾い上げ手渡しながら見上げると、紅の双眸が呆れたように見下ろしてきた。
「□□、あーいうのが好みなのか……。んじゃ金ピカは??」
「んー、ギル様には別に、そういう気持ちにはならなかった。というか私ねぇ、ギル様と陛下、そんなに似てると思わないんだよねぇ……凄く偉そうなとこだけ似てるけど!」
「そうかい……」
ふうとため息をついて、私のお世話係はやれやれと頭を掻く。
驚き呆れるのも無理はないだろう。偶々生き残った故に1人でカルデアのマスターをやっていると云うだけの小娘が、こともあろうにサーヴァント……古代エジプト歴代最強と謳われる彼の王の中の王に恐れ多くも……恋心を抱いているなどと聞かされては。
本当は『俺の可愛い妹分があんな傲慢なやつを』とか思っててほしいなぁ、なんて思うけど……いや、もしかしたら思ってくれているかもしれない。心配そうに眉がひくりと動いた、気がする。
「ねえクー、だってね、近う寄れって、顔が見たい言われた時すごく……すごくドキドキして熱くて」
「んー、さっきも聞いたって……嬉しかったんだろ。んで逃げ出したんだろ」
お手上げだというように手をひらひらさせる彼の腕をがっちりと掴み、赤くなった顔を伏せる。
逃げ出さずに私と一緒に悩んでよ、と。我儘は承知だが甘えていたい。
どうしたらいいかななどと訊かれても困るだろうと、分かっていながらも誰かに話さずには居られなかった。因果崩壊の折、最初に出会って以来側で支え助けてくれたキャスターのクーフーリンには絶対の信頼と安心感を抱いているから、自然と彼に相談する気になったのだ。
叶えたいなどと、叶うなどと思っている訳では無い。ただこのやり場のない切なさをどこへ向けて良いものか、その答えを一緒に探してくれる人が欲しかった。
「あーーーどうしよ……」
「どうしようったってなァ、どうしたいんだよ」
「そもそも」
唐突に背後からかけられた声に驚いて軽く飛び上がる。
「十中八九そのうち消えちまう……今の世を生きてねェ英霊なんぞに本気で惚れちまうってのが……馬ッ鹿だなァ」
「そこが□□らしいっつーかな」
同じ顔と声が、2人。ランサーの方のクーフーリンだった。