第1章 いつもと変わらぬはずの日々
昨日の夜はあんなに雨が降っていたのに。
思わずそう考えてしまうほどの晴天だった。
これから、私の仕事がはじまる。
目の前にある部屋のドアを見ながら、少しだけ深呼吸をする。
深呼吸が終わると、しずかに3回ドアをノックする。
コン コン コン
そう表現するのが正しいであろう音が長い廊下に響く。私のような一般市民でも質の良い木を使っているのがよく分かる。
「失礼いたします。」
部屋に入るとふわりと上品な花の匂いがしてくる。
花の匂いのする空気を少し吸い込み、奥様を起こす。
「奥様、おはようございます。起床のお時間でございます」
奥様に声をかけたあと、カーテンを開き、紅茶の準備をする。
「今日の紅茶はアッサムのミクルティでございます。朝食はパンケーキを用意させていただきました。バター、ハチミツ、ジャムのどれにいたしましょう?」
今日の紅茶の種類、朝食のメニューの説明をしてると奥様がベッドから降りてきた。
「そうね…じゃあ、バターとハチミツを乗せてちょうだい。」
「畏まりました。」
バターをぬり、奥様の口が汚れないようハチミツは少しだけかける。
それをテーブルの上におき、服の準備をはじめる。
奥様は赤い色のドレスが誰よりもよく似合う。
誰よりも赤が似合う。
他の方から「マダムレッド」と呼ばれているのに納得ができるほどだ。
そんなことを考えていると奥様から声をかけられる
「ねえ、アリス。私が病院に行く前にあなたに紹介しなきゃいけない人がいるの。準備が終ったら書斎まできてくれない?」
「畏まりました。なるべく早めに伺います。」
紹介しなければならない人とは誰だろう?
奥様の新しい愛人かしら?
まあ、どんな方でも奥様に恥をかかせないように早めに仕事を終わらせよう。