第6章 忘れていた大切な記憶
「何…言ってるんだよ。あいつが“百叶蝶々”?血筋じゃないし、能力だってないし、それにあくまでこれは能力の産みの“親”の事で能力者の事じゃないだろ?」
狼狽えながらも、十四松の言葉を引っくり返そうとするのに必死な自分。笑えてくる。確かに根拠も理由もない話だ。カラ松が能力をもっているとか、“百叶蝶々”とかなんだよって感じだし、正直全然現実的じゃない。
けれど、そうなんだけど。
「なら、どう説明すんスか?そこにある手紙、“カラ松兄さんがこれまで繰り返した事”だよね?書いてある事」
「……」
何を根拠に言ってんだって、そう思うだろう。当たり前だ、だって、最初見て気づくはずないこの手紙の正体を僕は見破って、その内容がこれまでカラ松が繰り返してきた世界と大事な人が死んだ回数を書いたものなんて思わないだろう。
それを見たことがある人物、書いたことがある人物を除いては。
「……“世界軸”が違うって言ってたよね、十四松」
「言ったよー?」
「……ここには、カラ松が高二になってから“繰り返し”を行ったって書いてあるけど、これは今より“前の世界”の話?」
恐る恐る尋ねてから、ごくりと生唾を飲み込み、返答を待つ。だが、その返答は、生唾を飲み込む必要なんてないほどに呆気なく聞かされた。
「───バタフライエフェクトって言うんだよね。些細な行動が未来に大きく影響する事。カラ松兄さんが百回も繰り返し続けて、遙ちゃんを助けようとする事」
──人の運命と言うものは、如何に何をしようと容易に変えられるものではない。だから、皆あえてその異端な方法に手を出さず受け入れようと必死になる。それが破滅の箱を開けてしまう切っ掛けになってしまうのが恐ろしいが故に。
「最初は、ただ遙ちゃんを助けたかっただけ。ただもう一度笑い合いたかっただけなんだと思う。でも、カラ松兄さん途中で壊れちゃったんだ」
十四松の口から語られた事は、あまりにも壮絶で。とても静かな口調のあいつは、よく泣くのを我慢したと誉めてやりたいぐらいで。
「……僕は見てるだけで何もできなかった。“兄さん”が皆の忘れてる記憶を書き起こすその背中を、遠目で見てた…」
「……十四松」
「──ねぇ、チョロ松兄さん」
ゆっくりと顔をあげた十四松は、開きっぱなしの口を不器用にあげて笑った。