第6章 忘れていた大切な記憶
僕の中に積み上がっていた“これまで”が崩れた。別に大した事じゃない。だって、これは良いことだ。おそ松兄さんが覚えているってことは、多分、十四松にも出始めた異能力がおそ松兄さんも使える訳で、対抗手段ができるのだから。
けれど。そうなんだけど。
「ま、いっぺんにじゃねぇんだよねぇ。何となく断片的に思い出すんだよ。狙われていたのが遙ちゃんの方で、カラ松はなんかが原因で繰り返し始めたってのはさ」
「……なんで、過去形なの」
「今はカラ松が狙われてるから、だな。遙ちゃんは死んだことになってるし」
死んだことになってる?
おそ松兄さんの言うそれは、まるで相手が誰かも相手の居所も知っていて、そいつらは彼女が死んでると思ってると言ってるように聞こえる。でも、事件は来年だ。それも、やっぱり……。
「言ったろ、断片的に思い出すって。相手が何者なのかはまだだけど、確かに裏社会にいる」
「……マフィアとか?」
「マフィアだったらいいんだけどなぁ、多分違う。その辺、まだ情報がないんだよねぇ」
こう言っちゃなんだけど、おそ松兄さんはこれまでの“軸”で何も役に立ってない。だから勝手に情報源としては除外してたけど、もしかして、凄い情報を持ってる可能性あったんじゃ……?
「そ、その情報って……」
緊張した体を落ち着け恐る恐る訊けば、おそ松兄さんは一瞬キョトンとすると、直ぐにニッカリと笑って、親指を小屋に向けた。
「まぁ、その話は全員のいる所でしよーぜ?これは一人じゃ出来ない、六人揃って初めて成せる案件だろうしな!」
まずは小屋を調べよう、と言うおそ松兄さん。そんな姿に、自分がいかに冷静さを欠き、焦っていたか自覚した。
落ち着け。まだ、時間はある。今焦ったって何も出来やしない。でも六人一緒なら、きっと。そんな安堵が僕の“目”を“開かせた”のだろう。
───あ。
「よーし!んじゃ、やりますか!」
仕切り直す様に腕を回したおそ松兄さんが、小屋に近づいていく。小屋を見上げる僕は、先の思いと体が離別して動けずにいた。
────小屋から溢れんばかりに蠢く目玉が、一斉に此方を見ていれば、それはもう蛇に睨まれたカエルの如し───