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月のうさぎは跳ねるのか?

第2章 月のうさぎは選ぶのか?


side歌仙

歴代の主や、主への贈り主に鉄の体へと込められた願い、感情、祈り、そしてそれらが、混じりあって宿った自我。

主の生き様を刻む歴史を守るため、僕達は政府とやらに協力を願い出た。

(ねえ、新しい主ってどんな人だと思う?)
(わしは…新しか時代を見極められるような奴がええなぁ)
(倒幕派は黙って)
(なんじゃと!?)
(…どうでもいい。と言うか喧嘩をするな鬱陶しい)
(僕は、真贋の見極めの聞く人間がいいな。贋作を嫌っていればなお重畳)
(君は変わらないね、まあ僕も雅の妙が分かってくれる人であればなんでもいいかな。)

刀の身体のまま、益体のない会話をしながら新しい主を待っているとす、と襖が開いた。

(お…?)
(これは…うさぎのみみ?)
(おや、月のうさぎとはなかなかに風流な子じゃないか。)

肥えた家畜のような無粋な男に肩をだかれ連れられたのは齢12を超えているのかも知れぬ幼子。

前髪を眉の辺り、後ろを顎の辺りで切りそろえられた月白色の髪はさらさらと触り心地が良さそうで、頭頂からは同じ色の兎のような耳が垂れている。

同じく月白色の睫毛に縁取られた、夜闇を固めた様な藍の瞳は今にも零れ落ちそうなほどの涙に潤んでいて痛々しい。

子供らしい滑らかでまろい頬を緊張で青白くさせ本来は桃か桜の花弁かと思うほど可憐な唇を血が滲むほど強く噛み締めていたのも庇護欲を誘った。

(弱そうじゃのう…)
(てか、俺より可愛くない!?)
(本物そうだな…写の俺とは大違いだ。)
(しっ、そろそろあの子が最初の刀を選ぶよ)

オロオロとしつつ、一つ一つの刀を見定めるように見つめる白い少女。

山姥切国広、蜂須賀虎徹、陸奥守吉行、加州清光

どれも彼女のお眼鏡に叶わなかったようである時は残念そうに、ある時は済まなそうに首を振っては刀の前から離れた。

「かせん、かねさだ…」

最後に残ったのは僕。
彼女は声も無く呟くと何かを思い出すように首を傾げた。
そしてよくよく見なければ分からないほどの微かな笑みのようなものを浮かべながら僕を刀置きから外し、抱きしめた。

「よろしくね、歌仙」

目の前に桜吹雪が舞う中、一度も聴いていない新しい主の声が聞こえた気がした。
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