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月のうさぎは跳ねるのか?

第1章 月のうさぎは笑うのか?


うさぎに名前は無い。

飢えた老人に我が身を与える為に燃える焚き火へと身を投じた初代月の兎から生まれ、今日まで月で月に住まう御柱、月読命に仕えて薬草や霊草の世話に奔走していた。

このうさぎが世話した薬草で薬を作り、それを与えると死にかけた者でもたちまちのうち己が身体に満ち溢れる力を感じるようになる。

月に住まうほかの神々の神使やら薬を司る神の神使を勘定に入れても上位に入るほど、うさぎは薬草の世話や調薬が上手かった。

神々の争いが起きた時に、うさぎの薬で救われた神も神使もいた。

しかし、誰もうさぎを誇りには思わない。感謝もしない。一部の神を除いて話しかけもしなかった。

うさぎは人の姿にもなれず、あまつさえ垂れ耳だったのだ。
月の兎の耳は皆ピンと立っている。地面に軽く引き摺るほど長く、そして根本から折れているのはうさぎだけだ。
瞳も紅玉のような赤ではなく、夜の海を固めた様な黒にも近い濃藍。
うさぎは仲間の兎から常に遠巻きにされた。

そんなうさぎは親にも優しくされた記憶が無い。ただ物心がついた時に月読命にわずかばかりの神格を与える為に頭を撫でられただけだ。

しかしそれがなによりうさぎにとっては嬉しかった。

月読命の為、と言われればどんな無茶もした。
月に住まう神々に頭を下げては日ノ本の国には無い薬草を分けてもらい、調薬の方法を聞いた。
ある時には月読命に求められた獣を狩るために非力なままではいけないと神々に滅される覚悟で神力の運用の仕方を教わった。

うさぎは真実、月読命に尽くした。
その献身ぶりは初代月の兎すら震えるものだ。


しかしこの数々の献身は









報われる事は無かった。
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