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第6章 ひとつ 吉太郎の語り ー焦げ白銀(しろがね)という雨垂れー



そン時、すぅっとひろン前髪の生えッ際から焦ゲが走り出した。
長ェ睫毛にチョンと引っ掛かり、危うく弾けそうになりゃがって、しっかりしろィ、こン間抜け。

遠く紀伊国から来た世間知らずの一粒ン雨垂れ。

そいつが一心にひろン痩せた優しい頬っぺたを駆け下りる。

駆けろ走れ、焦げ白銀。

ひろォ湿らす雨垂れらァすり抜けて、魂消た連中のざわめきィ尻目に、俺ン連れァ死んだ女ン為に走る。並み居る同胞ン中でヤツん心底が見えてンのァ俺だけだ。
ざまァみやがれ、コンチクショウ。
海ン底ォ夢みてウトウト雨垂れェやンのも悪かねェかも知れねェが、産まれたからにゃアなンかの役に立ちてェって雨垂れてのもいるんだゼ?焦げ白銀てェ雨垂れァ尻ッ腰の座った野郎だ。口ンしたこたァ違えねェ。正真正銘ン男だィ。何せアイツァ二本差しの雨垂れなんだえ?てェした(大した)モンじゃねェか。な!

よッ、紀伊国屋!
やってくれんじゃアねェか!こン男前!

そうだ、俺ァこうやって洒落のめして軽口ィききながらこれからも楽しくやってかァ。オメェが居なくたってよ。心配すんなよ、なぁ。

焦ゲがチラッとこっちィ見た気のした。

俺ンこと見てフッと笑って、薄ぅい唇乗り越えて、ひろン中に消えてった。
清々した消えッ振りだった。

…ああ……。

ああ。

死に水になりゃアがった。

俺ァしのごの言わずに死に水になりゃがった雨垂れ見んのも初めてなら、我から進んで死に水になった雨垂れ見んのも初めてだった。

そして、ちょっきりこれぎり、見ちゃいねェ。


ほけっとしておひろン顔ォ眺めてたら、やっぱりコイツァうっつくだなァてェ染み染み来た。
焦ゲんヤツが一緒ンいるてェんだから、併せりゃ愛しくさえ思えらァなぁ…。

我ながら辛気臭ェザマんなってたら、おひろからコチッてェ音がした。



目ェしばつかせて見たらばよ、ひろン口から金花糖が溢れ落ちた。

ええ?

…はは……。

黄橙ン金花糖がコロコロ河原ン下生えに転げて、きらきら陽の明かりと雨ン雫に光った。

やりゃがった。焦ゲ、この悋気持ち(焼き餅焼き)め。テメェ若旦那ンお天道様ァ蹴り出しゃがったな?
ふ…ははは!おい焦ゲ、オメェひでェなぁ!

まァいいやな!
ひろンヤツァ晴れでも雨でも笑ってる嬉しがり屋だぁ。
テメェのてんご(悪戯)にも笑ってんだろ。
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