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第11章 斎児ーいわいこー









秋光さんも徳次郎さんと同じく、優男で穏やかな顔立ちだった。けれど、それでも、秋光さんには節さんと似ているところがあった。

それは、真黒く強(こわ)い髪だ。黒いような木立の影と青い空を背に優しいけれど怖いような顔をした秋光さんは、伸ばしきりの黒黒した髪をしていた。これは多分、秋光さんが入寺する直前の出来事だったのだろう。
愛しみ合い通じ合う気持ちが温かく絡まり合い交わり合って、けれど拭い切れない罪の意識があるのはこの二人が徳次郎さんを思っているからだ。徳次郎さんを決して厭ってはいない。

私と節さんに入り込んだ秋光さんは徳次郎さんに明らかな憎意を抱いていた。御料林で通じ合っていたときの後ろめたさや思いやりは微塵も感じられなかった。家督を奪われたから?違う。秋光さんはそもそもそういう欲とは無縁の人に見えた。長く僧位が上がらなかったのは周囲の圧のせいだけではなく、本人の希望でもあったのだろうと思う。

何を恨んで徳次郎さんに構えるのだろう。何が伝えたくて現れたのだろう。

多分。

多分、秋光さんは父親になりたかったのだ。
恋しい人と生した子を慈しみたかったのだ。愛妻と手を取り合って、我が子を抱いて生きたかったのだ。
色んなことを諦めた秋光さんが諦めきれなかった夢が、家族だったのだ。

だから徳次郎さんが許せないのだ。

だって節さんの父親は、徳次郎さんではなく、秋光さんなのだから。


















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