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第11章 斎児ーいわいこー



「喧しい。お前の説教なんか聞きたくもねえ。説教垂れたきゃ呪いを解いて俺の声と体を何とかしてみろ。そしたら厂暁様って呼んで拝んでやら」

「無理を言うな。私にそんな力はない」

「しょうもねぇ坊主だなぁ。何なら出来るんだよ、お前は」

「読経と合掌…?掃除は得手だ」

「…お前、本当に坊主か?」

「本当に坊主だ」

「嘘臭ぇぞ」

「………いや、しかし本当だからな?」

「手前でも嘘臭ぇと思ってんな?」

「………そんなことは…ない…」

「まあいいや。お前が何でも俺にゃ関わりねぇし」

サクは飽きたように私には辛い話を打ち切り、囲炉裏の鍋の蓋をとって中をかき混ぜた。

「どっちみち、お前のことは今日も弥太郎か路六に頼もうと思ってたんだよ。弥太郎ならまたぶらぶら歩きだし、路六なら山菜とりだ。けど、無理に会うって用が出来たら険しい山道は歩かなくてすむぜ?わざわざ道のねえとこを歩いて鍛錬しねえでもいい。お前、昨日は早々にへたばっちまったんだろ。弥太郎が呆れてたらしいじゃないか。弱っちいって」

ムレにでも聞いたものか、人の悪い顔で笑ってまた木椀を指差す。
取れと言うなら投げなければいいものを、と、思っても口に出さない。ぐっと堪えて木椀を渡す。

「無理はこっから大分下りた、裾野近くの祠にいるよ。案内はちゃんと頼んでやるから、行ってみなって」

情けない顔をして返事をしあぐねていると、表でザワザワと葉擦れがなった。

「ムレもそうしろってよ」

サクが綺麗に笑った。唇の口角が艶やかに吊り上がって、赤い有明月のようだ。木椀に鍋の粥を盛って私に差し出した左の手に、矢張り赤い痣の月。
朝飯を受け取りながら、私はサクから目を反らした。

この子は里に下りない方がいい。美しすぎる。

同意するように、また葉擦れが鳴る。私は熱い粥を啜って頷いた。

間違ってもサクを拐いはしないから安心してくれ。

私もサクはここに居た方がいいと思う。















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