第10章 丘を越えて行こうよ
「食中りした牛みたいによたよたしやがって、何処が大丈夫なんだよ」
「実際牛なんだからしょうがない」
「開き直ったな。幼稚なヤツめ。…まあいいか。お前なんかどうでも、珍しく加奈子さんが顔出してたからな。もうちょっと残ってやっても……」
顎を上げてツケツケと言った加美山を、詩音はゆりべこちゃんの頭がずれる程の勢いで見返った。
「は!?今何と!?」
「……いやだから加奈子さんが珍しく顔出してんだよ」
あからさまに何だコイツという顔をして加美山が腕を組む。
「あんまこういうとこに出てこないからさ、あの人。…久し振りに話しかけてみるかな…」
「…止めなよ…。後が辛くなるよ?可哀想な加美山…」
「さっきから何なんだ、お前は!言いたいことがあんならハッキリ言えって!」
「早く帰って寝ろ」
「…首絞めるぞコノヤロウ」
「バーカ。女相手ならヤロウじゃなくてアマだっつの」
「アマって呼んで欲しいのか。頭おかしいぞお前」
「アマなんて言ってみろ。この頭で頭突きしてやるからな。アタシを腐すんじゃないって言ってるんだよ!アタシよかウツクシイ美白肌しやがって、韓流スターかお前は!首絞めたいのはこっちだっつの、このヤロウ」
「は…韓流…!?好きで色白なんじゃねえ!俺だってヤなんだよ、こんな美肌は!人の厭がることばっか言いやがって、ホンット可愛くねぇな!」
「上等だ。アンタに可愛いとか言われたらアタシは自分の可愛さを疑う」
「そこは疑っとけ。疑っていいとこだ」
「やかましい、早くうち帰ってキムチ食って寝ろ!」
「俺は辛いのは嫌いだ!」
「そんなん知るか!早く帰れ!」
「何やってんだ?始まっぞ」
聞き慣れた声に詩音と加美山の言い合いが止まる。
「よ!詩音も似合ってんじゃん」
ご当地ヒーローが朗らかに片手を上げて挨拶した。ネイガーの皮を被った敏樹だ。
「…"も"って何だよ、自分も似合ってんだろってか?図々しいぞ、敏樹」
戦う秋田名物に加美山が脱力した。
「いやー、何かスゲーしっくりくんだよ、これ。もしかして俺って生まれながらのヒーローなんじゃねえ?」
「生まれながらのバカだ、お前は」
にべもなく言い返した加美山の尻馬にのって詩音も頷く。
「明日の秋田をダメにする」