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第10章 丘を越えて行こうよ



「俺は別にキツイこと言われるのは嫌いじゃない。ただそれを言って来る相手を選ぶだけで」

「結局選ぶんじゃん。バカだねー」

詩音は厭な顔をして顎に皺を寄せたが、ゆりべこちゃんの頭の下のそれが見える筈もなく、加美山は詩音を立たせながらにやと笑った。

「お前じゃ話にならないけど、加奈子さんになら叱られてもいいな…」

「だらしない顔してからに。ますます気持ち悪いわ。彼女にしたい女はいないけど加奈子さんは別ってか?」

「だって綺麗じゃん、加奈子さん。あの人なら満更じゃないよ、俺も」

「まーったくここらの男は揃いも揃って加奈子さん加奈子さん、泣けてくるよ、可哀想に」

重い頭を押さえつつ、よたよた立ち上がった詩音はへっと息を吐いて加美山の手を振り払う。

「何が可哀想なんだよ」

口をへの字にした加美山に詩音は首を振ってよろけた。

「あ、あぶ、あッぶな!怖いよ、ゆりべこちゃん!もっと他になかったの!?しゅっとして軽くて可愛くて動きやすくて涼しいヤツとかさ!」

「バカみたいに勝手なこと言ってんな。そんな着ぐるみあるか、間抜け。それよか可哀想ってなんだよ。やなこと言いやがって」

憎まれ口を叩くわりには律儀な加美山が詩音に手を貸す。

「何ってアンタ…」

言いかけて口を閉じる。
加美山も敏樹と加奈子の仲を知らないらしい。それならここで迂闊に詩音が話すべきではない。

「…まぁ、さ。どこを見ても嫌われるような真似ばっかりしてたって生きてさえいりゃそのうち何かいいこともあるよ。な。加美山」

「…何だと?いきなりまるっとアヤつけやがって、ホントムカつくな、お前」

「そう?ムカついた?でもアンタ、いっつもムカついてんじゃん。だから大丈夫よ?」

「何が大丈夫だ、この出戻り女。おい、ちゃんと水分持ってんのか?ステージで倒れたりすんなよ、見苦しい」

「うるさいな。もうあっち行け。大体何しに来たのよ、アンタは。出戻りの顔がどうしても見たかったか?悪趣味なヤツめ」

「一也にお前が危なっかしいから介助してやれって言われたんだよ。帰りがけに迷惑な。わざわざ来てやりゃこの調子だし、さっさと帰りゃ良かったな」

「どいつもこいつも余計なお世話だわ。帰るならさっさと帰んなよ。アタシは大丈夫だし」

立ち上げまで手伝ったくせに本番も見届けず帰る気だったらしい加美山に詩音は呆れた。

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