第8章 真珠の耳飾りの少女(コラソン)
「・・・分かった」
ロシナンテの想いを知り、クレイオは静かに頷いた。
大切な場所であるはずのドレスローザなのに、貴方が何故あれほど苦しそうに語っていたのか・・・
その理由が分かった。
「“私のせい”ね?」
ロシナンテの頬に触れていた手を下ろし、少しだけ距離を取るように背中を引く。
「早く任務を終わらせれば、貴方は海軍に戻ることができる」
「ち、ちょっと待て?」
「私が涙を流せば、貴方の任務はそれで終わり。ドレスローザを守るためにドフラミンゴを止めに行くことができる」
私には難しい事が分からなけれど、これだけは分かる。
貴方がドレスローザを大切に思っていること。
今、ドフラミンゴを止めに行かなければ、貴方は一生後悔すること。
「・・・何度も言おう。私は・・・貴方の苦しむ顔を見ているのがつらい」
貴方は隠そう隠そうと努力しているけれど、その苦しみを痛いほど感じてしまうの。
マリージョアに来てからずっと、貴方はいつもどこかで悩んでいた。
私のために悩んで、苦しんで。
もうそんな貴方を見ているのがつらい。
ロシナンテ。
貴方とずっと一緒に居たいけれど、ここにいるべきではない人。
「貴方のためなら・・・喜んで泣ける」
嬉しそうに微笑むクレイオを見た瞬間、ロシナンテの全身に鳥肌が立った。
「たとえ人間の欲望を助長し、争いを生んだとしても・・・」
───世界で最も美しい涙。
「貴方のための真珠なら、私はいくらでも流すことができる」
だからもう・・・
悩まないで。
苦しまないで。
「貴方の任務は今、ここで終わる」
さようなら、ロシナンテ。
その言葉を思い浮かべるだけで十分だった。
目頭がジンと痺れ、眼球の奥からジワリと温かいものが滲み出てくる。