第7章 真珠の首飾りの女(ドフラミンゴ)
「それから1年も経たないうちに、マリージョアに送られた者達が次々と下界に戻ってきた。まるで用済みのオモチャとばかりにね」
美しい奴隷を生む、その役目を果たした奴隷はマリージョアから捨てられた。
「皆、人間の目をしていなかった・・・人として“死”んじまったのさ」
「・・・・・・・・・・・・」
つるは軍艦の手すりに寄りかかり、忌々しそうに眉根を寄せた。
「あたしは思ったよ・・・いったい“正義”はどこにあるのか、と」
この胸に掲げるは、「清らかなる正義」。
だけど、人権を無視した非道な行為を容認し、その片棒を担ぐ。
一人の海兵として、一人の女性として、悔しかった。
「お前さんを見ているとね、そのことを思い出してならないんだ」
もしあの時の奴隷達が子どもを産んでいたら、ちょうどクレイオぐらいの年齢になっているだろう。
何よりも、その息を飲むほどの美しさ。
“世界で一番美しい女の奴隷が欲しいえ”
あの天竜人のアホ面が蘇るようだ。
「おつるさん・・・私は・・・」
「何も言わなくていい。お前さんがそうであろうと、そうでなかろうと、あたしには関係のないこと」
つるはクレイオの方を向き、その目を優しく細めた。
「人間はね、誰もが“奴隷”なのさ」
目の前に広がる母なる海。
「何に隷属しているかの違いだけ・・・ある者は人間に、ある者は夢に、ある者は信念に支配されている」
クレイオのように天竜人に支配されるか。
“ワンピースを見つける”という夢に支配されるか。
それとも・・・
「私もこの背中に“正義”の二文字を背負うと決めた時から、その信念に支配されている・・・もう何十年もね」
女としての幸せを捨て、センゴクやガープ達と共にこの海の秩序を守るために戦ってきた。
「だけど一つ覚えておおき。幸せな人間ってのは───」
海軍の象徴であるカモメが大空を飛んで行く。
自由に、力強く。
「何に隷属するかを、自分で決めた奴のことさ」
世界を敵に回しても、愛に生きるというのなら、それを止めはしない。
お前さんは、自らの意志でドフラミンゴへの愛に隷属したんだ。