• テキストサイズ

鏡花水月<薄桜鬼>

第3章 幹部と共にする夕餉


「…あの」

「?何だ?」

原田との会話が済んだのか、千鶴が私に話しかけてきた。

「あなたは一体…」

「ちょっといいかい、みんな」

その言葉を遮るように、源さんが部屋に入ってきた。

その表情は、どこか翳っていた。

「大阪にいる土方さんから報せが届いたんだが、山南さんが隊務中に深手を負ったらしい」

「えっ!」

その場にいた誰もが声をあげた。

山南が深手…。これは、何かの始まりに過ぎないのではないだろうか。

弥生は、そんな一抹の不安を感じ、どこか恐れていた。

「呉服商へ押し入った浪士と斬り合いになった折、怪我をしてしまったようだ」

源さんは重い口調でそう告げた。場の空気が一層張り詰める。

「深手って、どれくらいだ!?」

「詳しいことは分からないが、斬られたのは左腕とのことだ。命に別状はないらしい」

「良かった……!」

それを聴いて思わず千鶴が口にした言葉に、平助が反応した。

「良くねえよ」

「え……どうして?」

千鶴は、父様…綱道を捜しに京へやって来たのだと聴いた。

そして…綱道は失踪前、蘭方医として新選組に関わっていたらしい。

千鶴は、綱道が本当の父親ではないと知らされていないようだった。…勿論、この場でその事を知っているのは私だけだがな。
だから、先程の発言は医者の娘としての発言だろう。

…ただ、此処にいるのは命を優先的に考える医者などではなく、いつ死ぬのかも分からない幕末の志士たちだ。

「刀は片腕で容易に扱えるものではない。最悪、山南さんは二度と真剣を振るえまい」

「あ……」

一のその言葉に、自分の発言の浅はかさを自覚したのか、千鶴は口元を押さえた。

「山南さんたち、数日中には屯所へ帰り着くんじゃないかな。……それじゃ私は近藤さんと話があるから」

云い終えると、足早に源さんは去っていった。

暫くの沈黙が続いた。…が、それを破ったのは総司だった。

「こうなったら……薬でもなんでも使ってもらうしかないですね。山南さんも、納得してくれるんじゃないかなあ」

総司の言葉にあった、薬という言葉が引っ掛かった。その薬というのは……まさか、

「滅多な事を言うもんじゃねえ。幹部が『新撰組』入りしてどうすんだよ」

「え?山南さんは、新選組の総長じゃないんですか?」

千鶴がそんな事を口にした。


……嫌な予感しかせぬ。
/ 10ページ  
スマホ、携帯も対応しています
当サイトの夢小説は、お手元のスマートフォンや携帯電話でも読むことが可能です。
アドレスはそのまま

http://dream-novel.jp

スマホ、携帯も対応しています!QRコード

©dream-novel.jp