第2章 新選組
「お願いします…!話を…」
「もういい。…連れてけ」
これは、どういう状況だろうか。自分と共に連れてこられたらしき女子は今、元の部屋へ連れ戻されていった。
話は、少し前に遡る。
「おはよう、昨日はよく眠れた?」
青年のその質問に、少しばかり狼狽える女子と、それを咎める髪の長き青年。
私はそのやり取りを興味津々に見詰めていたが、昨日の土方という者に一喝された事で、やがて尋問の様な物に切り替わっていったのだった。
そして、話は冒頭に戻る。
「総司が言うには、てめぇは傷の治りが早いらしいな」
土方が私に向かって答えろ、という視線を送ってくる。そう睨まなくても良いと思うのだが。
「あぁ、鬼だからな」
「…鬼?何ふざけた事言ってやがる!正直に吐きやがれ!!」
大方、昨夜の出来事が関係しているのだろうと推測できる。が、その一部分しか目にしていない私に内容が理解できる筈もなく。
「…はぁ。だーかーらー、正直に鬼と申しておるであろうが。これは正真正銘の事実。人間はお伽噺とばかり思っているそうだが…案外そうでは無いものだぞ?」
そう述べると辺りを囲むように座っていた男達が口を開けて呆けた様に此方を見ていた。
未だに縛られている手首が僅かに痛む。ほどいたとしても、どうせ直ぐに治るのだろうが、痛いものは痛いのだ。しかも地味に痛む。
「…そういや、名を聞いていなかったな。まずは名を名乗ってからだ」
やはり、かなり上の立場の人間なのか、土方が始めに口を開いた。
「む、私もすっかり忘れていたぞ。申し訳ないな。
…私は榊弥生。幻と言われた日ノ本最強の鬼一族の頭領だ。以後、宜しく頼む」
と言い、頭を下げる。頭領になる前は、一族の皆や弟に頭領としての自覚を持てと、礼儀作法を一通り否応なしに学ばせられたものだ。
「…顔を上げろ。お前が嘘を吐いている様には見えねぇ」
「だから本当に嘘は吐いていないと──」
「副長、どうするおつもりで」
「…暫くは様子見だ」
「保留、という事ですか」
この土方という男は、見掛けに依らず優しいのだな。見た目は…うむ、物凄く怖いが。
「総司!連れていけ」
「はーい」
髪の長き青年…斎藤と言ったか、と話終えたらしき土方は、総司(青年は総司というらしい)という者に私を連連れて行かせた。
その際、手首の縄は外して貰った。
