die Phasen des Mondes【ディアラヴァ】
第7章 episode.7
抑えようのない苛立ちが心を支配する。
この私が、らしくもない。
不愉快で腹立たしい。
何故こんなに心を乱されるのか。
「随分と楽しそうにしていたじゃないですか…」
近くを通っていたらピアノの音がするのでライトかと思ったら、マイさんが弾いていた。
シュウに言われるがまま曲を弾いて…。
貴女はこれまでもカナトに愛想を振りまき、アヤトやライトには吸血を許し、スバルまでも誘惑していたじゃないですか。
穀潰しにまでもその笑顔を見せているかと思うと…。
苛立ちを抑えようと庭園に出るとふたりがいた。
猫をあやすその笑顔、そんなに不用意に近付かないで欲しい。
かすかに血の匂いがして…。
無防備すぎてまた苛立ちを覚えた。
このまま吸血してしまう事も可能です。
しかし…、欲望に支配され我を失うなど、愚かな兄弟たちと同じになってしまう。
満月が近いからだ。そのせいにしてしまえばいい。
細く白い首筋に牙が疼く。
馬鹿馬鹿しい。
私には、やるべき事が沢山あるのです。
こんな事に翻弄されている場合じゃない。
彼女の背中を見送った後、落ちていた薔薇の花びらを月明かりにかざすと薄く透けてまるで彼女の白い肌のようだった。