die Phasen des Mondes【ディアラヴァ】
第13章 episode.13
必死で訴える声も一緒に飲み込むように、私の口の中に溜まる血を吸い、口の端から伝い落ちる赤い液体も舐め取っていく。
「はぁ…、はぁ…」
「…ほら、もう開けられるでしょう?
口を開けて見せて下さい」
私が口を開けると覗き込み困ったような顔をする。
「はぁ…。
舌先を少し傷つけてしまったようですね。
…すみません。
無意識のうちに牙が出てしまったのでしょう。」
「いえ…私が触ってしまったんです。
ごめんなさい」
じわりと血の味がしてきた。
まだ出血しているのだろう。
「口の中は傷の治りは早いと思いますが…。
…私が舐めれば治りはより早くなります」
既に口を開けるのが躊躇われ、コクリと頷くと、レイジさんは笑った。
「…今更確認も必要ありませんね…。では…」
優しく口付けると、舌が唇を割り私の舌先と触れる。
「んぅ…」
「貴女は動かないで…じっとしていて」
胸の奥が甘く痺れる。
涙が勝手に瞳の端からこぼれ落ちる。
私は、初めてレイジさんに嘘をついた。
出来ない約束をした。
一緒に食事をする事も、お茶を淹れて貰う事も、もう出来ないのだから。
「すみません。
痛かったですか?」
「少しだけ」
私はまた小さな嘘を付く。
舌先は痛いどころか甘く幸せを感じているのに。
いや、でも嘘ではないのかもしれない。
胸の奥が痛くて痛くて仕方がないのだから。
離れたくないと思う気持ちがより一層大きくなっても、どうする事も出来ない。
また一筋の涙が頰を伝った。