第1章 阿吽と私
「やーい、泣き虫」
「親無しおばけ」
昔、私はよくいじめられていた。
小さい身長に、親のいない家庭。
母と父は離婚。
父親のおばあちゃんに預かられ、私は小学校低学年までいつもいじめられていた。
抵抗はしなかった。
なぜだかわからない。
しなかった。
多分きっと、勝ち目などないとわかっていたからだろう。
「おい、やめろよ!泣いてんだろ」
「は、ハジメちゃん危ないよ!」
私の人生が変わったのはこの一言からだった。
私の目の前に立つ2人。
虫取りあみを片手に持つ少年は、ブンブンとそれを振り回し、いじめっ子をあっという間に追い払う。
それから私を見て、嫌そうな顔した。
「だっせ」
「ハジメちゃんそういうの言ったらいけないんだよ!…だ、大丈夫?」
もう一人顔の整った子は私に向かってハンカチを渡す。
『…うん』
「…仲間にしてやるよ!いっつもいじめられてるし、友達もいねえんだろ!」
『い、いいよ、私なんか…』
俯く私に、彼はきっとイライラしたのだろう。
急に大きな声を出した。
「俺の言うことは絶対なんだよ!」
虫取りあみを地面において、私に手を差しのべる。
隣の子はニコリと笑い、同じように手を差しのべてきた。
そう、これが私たちの出会い。
泣き虫の私と、強がりのハジメちゃん、優しい徹。
私にとってのヒーローだった。