第1章 年下の幼馴染
平日の夜、仕事を終えて家へ帰る。
「ただいまー」と玄関を上がり、母さんが晩ご飯を用意してくれているダイニングへそのまま向かう。
いつもどおり母さんがいて、「おかえり」と私を迎えてくれたのだけれども。
そこにはもう一人、久しぶりに見る顔が。
お隣の流川さんちの子、楓だ。
テーブルに並べられたご飯を黙々と食べているところだった。
「今日は流川さんご夫婦揃って朝から出張へ行っててね、帰りが明日になるって話だったから楓くん晩ご飯だけでもウチで食べればって誘ったのよ」
「ふーん、そうなんだ」
流川さんちとはお隣同士、家族ぐるみの付き合いで、子供の預かり合いという助け合いが昔からよくあった。
といっても私は27歳だから、もう預かられることはないのだけど。
私よりも10歳年下の楓は今、高校二年生だ。
「育ち盛りだし、毎日バスケット頑張ってるから、しっかり食べないとね!楓くん、ご飯おかわりは?」
母さんに聞かれた楓は手に持っていた空っぽの茶碗を差し出して「…ウス」と僅かな返事をする。
相変わらず無口で無表情な子。
昔から慣れ親しんでる母さんは気にすることもなく上機嫌にご飯のおかわりをよそってあげる。
それから私の分のご飯もよそって寄こしてくれた。
そうだ、私もご飯を食べに来たんだったんだと楓の斜め向かいの席に座る。
そこでふと初めて楓と視線がぶつかった。
「元気してるみたいね」
「おう」
久しぶりにした、他愛もない会話。
小さい頃の楓は今と変わらず無口で無表情で、そのうえ何の前触れもなく何処かへ飛んで行ってしまったり、没頭しすぎて帰る時間を忘れてしまったり、何かと世話の焼ける子で、一緒にいることが多かった私は楓を年の離れた弟のように目をかけて傍にいた。
でも、それも楓が小学校に上がるくらいのときまでのことで、その頃には私も高校生で勉強に部活に友達と遊んだりと高校生活を満喫していたし、楓も時々ウチに預かられには来るものの、そのうちバスケに夢中になって、私たちが一緒にいる時間は年を追うごとに減っていった。