第9章 おそ松のおでん
主人公視点
バラエティー番組から賑やかな笑い声が聞こえてくる。
わたしは、テレビに視線を移すことなく合鍵を見つめていた。
『マジでいいの?じゃあいつでもイチャイチャしに逢いに行っちゃおー!!主ちゃんも寂しくなったら呼んでくれよな?お前のためならすぐ駆けつけるからさっ!』
渡した時、とっても喜んでくれたっけ。
泣き腫らした瞳からは、もう涙が溢れることはない。
けれど、口からは深いため息がこぼれ落ちた。
おそ松くんと連絡を取らずに、二週間が過ぎようとしている。たった二週間なのに、彼と触れ合えず、声も聞けない日々は、退屈で寂しくて…とても長かった。
あの日、感情的になってしまった自分にずっと後悔している。ちょっとずつ、二人でがんばろうって言ってあげられたらよかったのに。
お気楽で優しくて、いつも笑わせてくれるおそ松くん。
わたしがワガママを言っても、笑って受け止めてくれるおそ松くん。
沢山わたしを求めてくれて、可愛がってくれるおそ松くん。
それが当たり前になっていた。
けれどもう、わたしの隣に彼はいない…。
「あいたいよ…おそ松くん…」
想いがポロリとこぼれた時、
—ピンポーン—
玄関のチャイムが響いた。