第1章 1話
赤葦視点
妙な自称小説家の佐藤美咲。本名を聞いても、もちろん教えてくれない。だが、ネットで調べても小説家なんてことは出てこない。
同級生? いやいや、そんなことはない、彼女は俺より幼く……いや年上にも見える。どっちなんだ。
俺がこの花園に来るようになって、かれこれ半年は経つ。会話も全然ない。俺が作業の邪魔になるかもしれないと思って、一方的に話さないだけ。彼女は自分のことをちっとも教えてくれない。だが、察したことはあった。
一つ、彼女は紅茶が好き。俺が来る時、いつも紅茶を飲みながら原稿用紙に向かっている。
二つ、彼女は薔薇の世話が日課。薔薇について聞いたときの彼女の答えはこうだ。
「薔薇はね、世話を欠かせないのさ。初心者がある程度頑張っても、花を咲かせてくれる。でも、より美しくしようとするなら毎日手入れがいるのよ」
と言っていた。
三つ、彼女の小説は大抵、主人公が不幸な目にあう。
四つ、彼女の小説は短編の連作が多い。
この位しかわからない。後半の二つは、読んでいて分かるし、二つ目は聞いて推測しただけ。やっぱり、彼女のことは何も知らない。