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薔薇の小説家と赤葦君

第5章 5話


赤葦視点

花園に通ってかれこれ長くたつ。どの位かって? 一年位?
そんな日の話。花園通いは終止符をうった。
いつも通りに花園へ行くと、彼女は花束を作っていた。
「いらっしゃい。コーヒー、入れるよ」
と花束の作業を置いて、パタパタとアンティーク物のマグカップを取り出した。相変わらず手際がいい。一緒に彼女の分であろう紅茶を用意していた。
花束は豪勢なものだった。同じ種類だと思う真っ赤な薔薇がたくさん。本数で花言葉が違うと聞いたことがある。
彼女はアーガイル柄のコースターを二つ置いて、アンティーク物のマグカップも置く。湯気がモクモクとたつ。あの日の、ように。置いて、すぐに彼女は花束の作業に取り掛かる。
「ゆっくりしていってね」
と言ってから。
原稿用紙は既に出来上がって、読んでくださいと言わんばかりに綺麗に置いてある。もちろん、読んだ。
読んでいる間、花束を作り終えた彼女は俺を見つめる。今日は、もう、書かないのか。
話の流れから、あの薔薇は九十九本と察した。彼女は冷め切った紅茶を飲んでいる。
夕焼けもすっかり沈んで、月が輝く。そろそろ帰りますと言うと、送るよと彼女は花束を抱えていた。
「俺に、ですか?」
と問う。
「そうだよ。九十九本の薔薇、花言葉は永遠の愛」
と彼女は淡々と言う。
「愛? どうして」
疑問でいっぱいだ。疑問符が星のようだ。帰路につきながらも彼女は淡々と着いてきた。
「幼馴染。君の幼馴染だよ、私は。長浜真里。伝えそびれた言葉を伝えに来たんだ」
思い出した。二つ上の幼馴染。交通事故で死んだ、長浜真里。薔薇の花を母親と共に育てていた。
薔薇の香りと佐藤美咲の姿の懐かしさは真里から来ていたんだ。
「それじゃあね。私はこれを伝えるためにいたから、帰らなきゃ」
と彼女は手をふる。
「待って」
と叫ぶと、彼女は足止め、踵を返した。
「薔薇の世話、俺が引き受けてもいい?」
と叫ぶ。彼女は頷き、夜の森に消えた。
その後日、温室はオンボロの温室になっていた。だが、一つだけ。枯れていない鉢植えの薔薇が残っていた。俺が引き受けた薔薇の世話。こいつだけでもやらせて下さい。
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