第8章 夏の始まりと合宿と…
思わずびくりとしてしまったけれど・・・
とても優しくて、どこか鋭い瞳にじっと見つめられて、私は動けなくなってしまった。
斎藤先輩から紡がれる言葉は、耳を疑いたくなるほど、優しくて甘いものだった。
とても真っ直ぐな瞳で見つめられて、このまま斎藤先輩の瞳の中へ入り込めてしまいそうな錯覚に襲われる。
なんだかいつもとは違う雰囲気に、逃げ出したくもなるけれど、斎藤先輩の瞳をそらすことなんてできなくて…
顔にのぼった熱はどんどん高くなっていくけれど、私は斎藤先輩の瞳を見つめ返した。
「雪村」
低くて甘い・・・そしてとても誠実で・・・暖かい声・・・
――――・・・
突然でもあり・・・そんな雰囲気だったと言われれば、確かにいつもとは違う雰囲気の中。
斎藤先輩が私にくださった言葉は、あまりにも嬉しい言葉で。
そして予想外なもので。
大切にしたい言葉だった。
無意識にこぼれた涙が頬をつたうのがわかった。
今まで私は斎藤先輩の何を見ていたのだろう。
夢主(姉)先輩とのことを考えたり、黒い気持ちに何度もなった。
今日、この場所へ来ることさえも、躊躇してしまっていた。
斎藤先輩は私を見ていてくれたというのに。
「雪村」
斎藤先輩は、私の涙を指で拭って、そのまま私の瞳を覗きこむ。
「雪村、あんたといつでもこうして過ごす約束ができるような・・・そんな近い距離に俺はいたい。約束をする事が不自然ではない関係でありたいと思う。」
どんどんこぼれる涙を斎藤先輩の指が受け止める。
「雪村・・・いや・・・千鶴。俺の恋人となって欲しい。」
涙が溢れすぎて、顔はきっとくしゃくしゃだ。
涙を拭ってくれている斎藤先輩の手を、私は両手で包んだ。
「斎藤先輩――」
私も好きです。
遅刻をして、初めてお話したあの日からずっと。
涙で途切れ途切れになりながら、なんとかそう言い終えた私に、斎藤先輩は優しく微笑む。
「でもっ私は・・・」
言うべきか迷った。
私は、黒い気持ちにもなってしまうんです、って。
きっとすごくやきもちを妬いてしまう嫌な女かもしれないって。