第8章 夏の始まりと合宿と…
言葉に詰まって、下を向く私に、
「何か・・・思うことがあるのなら、伝えて欲しい。言葉で言わねば伝わらないことがあるのだろうと思う。俺は、あんたがどう考え、どう感じ、どう思っているのかを知りたい。」
優しい声色で、ゆっくりゆっくり、下を向いた私に降り注がれる斎藤先輩の言葉に、心が落ち着いていく。
「私はもしかしたらとてもヤキモチをやくかもしれません。」
唐突に私がそう言えば、斎藤先輩は少し驚いたようだった。
「今日だって・・・夢主(姉)先輩を見る斎藤先輩に、どんどん黒い気持ちになって・・・」
再び涙がこぼれはじめる。
想いが通じたというのに、私は何を言っているのだろう。
嫌われてしまうかもしれないのに・・・
そう言って俯いたまま、私は黙りこんだ。
「千鶴・・・」
斎藤先輩は両手で私の顔を包みこみ、私の目を見つめると、
「ありがとう」
と、低くて優しい声で言った。
「そうやって、何か思ったら伝えて欲しい。そうか・・・そんなことを思っていたのか・・・」
そして少し戸惑った表情になって、
「夢主(姉)を見ていたのは・・・その・・・なんだ・・・なんとなく自分の過去を振り返っていた、というか・・・」
ぶつぶつと、そう言い始めた斎藤先輩は、きっと私への精一杯の気遣いをしてくださってる。
私はそれがとてもうれしくなって、斎藤先輩の手に自分の手を重ねて、微笑んで見せた。
「斎藤先輩のことも、いろいろお話してくださいね?」
にこり、と、自分の中の一番の笑顔をひっぱり出して、そう言うと、斎藤先輩も微笑んでくれた。
ずっと見つめ合いながら重なった手に、いまさら恥ずかしくなって、私達はくすくすと笑い合うと、遠くから土方先生の「消灯だ」という声が聞こえてきた。
改めて斎藤先輩を見れば、なんだか恥ずかしくなってしまって、きっと私の顔は真っ赤で・・・
「で、では、あの・・・」
さっきまでとは打って変わって、うまく言葉が出てこない。
「よろしくお願いします」
湯気が出そうなほど真っ赤になりながら、私はぺこりとお辞儀をした。
「おやすみ」
と、言った斎藤先輩の顔も赤かった。
部屋まで戻る廊下の窓から、空を見る。
近づいた距離がくすぐったい。
この満天の星空を、また斎藤先輩と見られたらいいな。