第8章 夏の始まりと合宿と…
雪村が必死に枕を投げている様子を想像するだけで、なんだか顔が緩んで仕方ない。
だが、枕を当てては大変だ。しっかり守備をせねば…
と、考えていると、くすくすと笑う声が聞こえた。
「斎藤先輩、さっきから難しいお顔をなさってますけど…」
そう言う雪村は微笑んだままだ。
「いや、あんたに当たっては大変だと思って…」
「ありがとうございます。ふふふ。斎藤先輩が枕投げなんて、なんだか意外で面白いです。」
雪村はうれしそうにそう言うと、
「よし、頑張ります。土方先生の背中に貼紙なんて、そんな怖いことしたくありません。」
ん、と口を結んで、気合いを入れたらしい雪村を見て、俺は再び笑みがこぼれる。
雪村の目を見て笑えば、少し赤くなって俯いた。
そしてそのまま上目遣いで俺を見上げて、にこりとする。
これは…本人に自覚があるのだろうか?あるのだったらとんでもない悪魔だろう。
俺はそんな雪村の一連のしぐさと表情に、完全に捕われてしまっている。
「斎藤先輩?」
無言のままの俺に、首を傾げて声をかけてくる雪村に、
「いや、なんでもない。」
と、近くに落ちていた枕を拾った。
勝敗が決まる前に、鬼の形相の土方先生に怒鳴られ、この枕投げ大会は終了した。
消灯までわずかな時間しかなかったが、俺はこの合宿中、毎日行っていた中庭へ向かった。