第8章 夏の始まりと合宿と…
夢主(姉)が合宿に参加すると聞いた時は、どうしたものかと思った。
四月の終わりに別れて以来、話すどころか顔も合わせていなかったのだが…
合宿所で、久しぶりと声をかけられて、結局夢主(姉)のことを何も知らなかった自分に気づかされた気分だった。
もう恋い焦がれる気持ちはないが、更に距離が開いた夢主(姉)との会話は何か懐かしいようなくすぐったいような、変な感覚になる。
左之先生から枕を受け取った夢主(姉)は、
「よし、俺に思いきり投げろ!」
と、挑戦的に言う左之先生に枕を投げて、とても楽しそうに笑っていた。
ああ、あんな風にも笑うのか…そんなことを思った時だった。
横から視線を感じて、そちらを向けば、雪村がこちらを見ている。
「あんたも投げるか?」
心なしか寂しそうに微笑む雪村に、先ほど平助に投げられた枕を拾って渡した。
「チーム戦にしようよ。負けたチームは…そうだ、土方先生の背中に「I am 鬼」っていう貼紙を張るってのどう?…ばれたら殺されちゃうかもだけど。」
部長の提案に、二人組のチーム戦で、戦うことになった。
「みんな組めた?参加しな~い、なんてのは無しだよ。」
部長はにこにこと笑いがら、まだ組んでいない部員達を適当に組み合わせて行く。
「…雪村、組むか?」
横で俺が先程渡した枕を抱きかかえている雪村に、俺はそう声をかけると、はい!と意外と元気な声が返ってきた。
雪村は枕投げをしたいのかもしれない。
控えめながらも楽しそうにしている雪村をちらりと見て、俺はまた笑いが込み上げた。
そんな俺に、
「斎藤先輩も楽しそうですね。」
と張り切っています、とばかりな顔で言うものだから、俺は笑いが止まらなくなった。